バカロードその24 北米大陸横断レースへの道 その5 70日間5135キロ

公開日 2011年05月16日

文=坂東良晃(タウトク編集人、1967生まれ。18〜21歳の頃、日本列島徒歩縦断、アフリカ大陸徒歩横断など約1万キロを踏破。男四十にして再びバカ道を歩む、か?)

 北米大陸横断レースのスタート日まで2カ月を切り、大会の輪郭が徐々に明らかになってきた。現時点で決定していることをまとめてみた
【スタートとゴール、日程】
 6月19日にカリフォルニア州ロサンゼルスの南部、ハンティントンビーチの海岸よりスタートし、8月27日にニューヨークのセントラル・パークにゴールする。

【距離】
 総距離は5135キロ。
 70日間、1日の休日もない連続ステージ・レースである。
 最も長く走る日は95.4キロ、最も短い日は42.2キロ。1日平均は73.3キロである。
 80キロ以上を走る日が20日間、うち90キロ以上が4日間。

【制限時間と失格】
 「時速5.7キロ×コース距離」の計算式で、毎日の制限時間が決定される。
 1日平均12時間52分。最長日は16時間44分である。
 1日の終了地点への到着が制限時間を越えると失格となる。

【サポートクルーの義務づけ】
 レース開始から13日目、875キロ地点のアリゾナ州フラッグスタッフという街までは、サポートクルーの同行が義務づけられている。
 サポートクルーの主な役割を列記する。サポートカーの手配と運転。数キロおきに選手に食料や水を提供する。必要な物資調達。毎日のゴール・スタート地点と宿泊施設間の送迎。
 14日目以降は、サポートクルーなしでの走行が認められる。その場合ランナーは、主催者が提供するエイドで補給を受ける他は、自らの責任で水や食料を調達する。

【サポートクルーのいないランナーの荷物預け】
 主催者に依頼することができる。毎日のスタート地点から終了地点まで運んでくれる。荷物の数は1人につき2個まで。費用は100ドル。

【主催者側のエイド】
 主催物は、約6.4キロごとにエイドを設ける。水やエネルギードリンク、コカコーラ、シリアル、エネルギーバー、塩クラッカーなどが提供される。

【食事】
 朝食は主催者が提供する。内容は、紅茶、コーヒー、砂糖、パン、ジャム。これらを1つのボックス(弁当箱)にまとめ、毎日のステージ終了後に渡される。朝食以外の食事は、選手が自分自身で調達する。

【携帯物の義務】
 走行中は必ず1.5リッター以上のウォーターバックあるいはボトルを持たねばならない。
 また、現金10ドル、当日のレースシート(コース表)を携帯しなければならない。
 夜間走行中あるいは視界不良時には、ヘッドライトと蛍光ベストを着用しなければならない。
 宿泊施設のいっさいない地域でキャンプする場合に備え、以下の装備を用意しなければならない。
 テント、寝袋、お椀、皿、カップ、箸。

【失格時の措置】
 レース開始から7日以内に失格(制限時間オーバーなど)や自己申告リタイアした場合は、大会にとどまることは許されない。近隣の都市に移動し、帰国する。
 レース8日目以降に失格、リタイアした場合は、他のレース参加者に迷惑をかけないよう配慮したうえで、コースを走ることができる。その場合は、ゼッケンを外すとともに、記録測定はされず、順位は表示されない。

【参加費】
 6500ドルである。日本円で約50〜55万円相当。

【現在の出場予定者】
 イギリス人2名、フランス人4名、ドイツ人3名、イタリア人1名、オランダ人2名、日本人4名、合計16名。
 男性14名、女性2名である。最年少は31歳、最年長は69歳。

    □

 以上があらましだ。そしてコースの詳細も明らかになった。あらためて行程表をながめると途方もない。
 最初の1000キロは荒野と砂漠をゆく。気温は50度近くまであがり、路面温度は60度にもなる。やがて標高3000メートルのロッキー山脈越えだ。繰り返される数百メートルの登り下りを薄い酸素をゼーゼー吸って粘る。ロッキーの東側には果てしない農地が広がる中部平原地帯。真っ直ぐな1本道が地平線よりもっと向こうまで続く。さらに高温多湿な東部の低地帯で真夏の太陽に焼かれ、ゴール間近の最後のダメ押しは起伏の激しいアパラチア山脈越えが待つ。
 毎日、平均73キロ。1日たりとも休みはない。
 予想するに、スタートから7日目までには何かしらの限界が訪れていると思う。極度の疲労か、深刻な関節の痛みか、免疫低下による病気か。根性とか信念(もともとないけど)は早い段階で消失霧散し頼れるツールではなくなっていて、ギラギラしたものはさっぱり洗い流されて、たわいもない薄っぺらな人間性だけが、ノーガードでむき出しになった状態になるんだろう。「で、ぼくはこんな状態になっちゃいましたが、どうしますか?」と自分に問うことになるはずだ。
 だがきっとやれる気がする。ぼくは、小さい物事にはくよくよと悩むタイプだが(歯医者に行きたくないとか、名刺をうまく渡せないとか)、許容量をこえた難問難題に対峙するととたんに不感症を発症し、さらに誇大妄想狂が加わって、何でもできる気がしはじめる。自分の能力ではできそうもない餌を目の前にすると、尻尾を千切れるくらい振り、よだれをザーザーたれ流す。うふふふ、なんだか楽しいね。