バカロードその46 雑誌つくりたい若者おらん?

公開日 2012年07月25日

文=坂東良晃(タウトク編集人、1967年生まれ。1987年アフリカ大陸を徒歩で横断、2011年北米大陸をマラソンで横断。世界6大陸横断をめざしてバカ道をゆく)

 地元の雑誌、少ないなーと思う。
 本屋さんに行くと単行本、文庫本とラインを違えて雑誌が並んでる一角というか列があるでしょう。新刊だけで数百誌並んでます。そのなかで徳島で出版されている雑誌は全誌のうち1%にも満たない分量です。
 日本国内に出回っている出版物はその99%が東京の出版社から発行されています。東京の発行点数に比べたら、大阪にも名古屋にも出版社は無いに等しいと言えます。ハンパない一極集中っぷりです。そりゃ全国に本を流通させようと思ったら、東京が便利なんだけどね。雑誌の出版という仕事は、大衆文化のうえに乗っかったものだから、やっぱメイン+サブカルチャーの先端で、政治・経済・社会変革の初動が起こる場所でこそ出版する必然が生じ、成熟していく産業ではあるんだけど。理屈ではわかってても、何となく悔しいなあと思うわけです。
 そういう地味な反撥心もありーので「タウトク」「CU」「徳島人」ほか細々と出版物を発行しているんだけど、
 「徳島みたいなド田舎に、そんなにたくさん情報あるのかよぉ、雑誌なんているのかよぉ」
 と見ず知らずの人にからまれる場面、多々あります。
 はたして徳島はさびれ果てたド田舎なんでしょうか。それは徳島という土地をどう見ているかによるわけで。ここはひとつ客観的な数値で見てみましょう。
 徳島県の県内総生産GPPは2.7兆円です。世界各国の国内総生産GDPと比べると、ケニア(2.6兆円)、ネパール(1.3兆円)、ジャマイカ(1.1兆円)、アイスランド(1.0兆円)、カンボジア(0.9兆円)あたりより経済規模は大きいのです。GDPが公表されている142カ国中では81位に相当します。けっこう上位でしょ、これ。
 また、人口が77万人まで減ったと嘆いているけど、ブータン(72万人)やルクセンブルク(51万人)よりも多いのです。徳島県より人口の少ない国家は地球上に69カ国!もあるんです。
 徳島と同等かあるいは小さい経済規模の国が、立法装置としての国民議会や諍いをジャッジする最高裁判所を持ち、ミサイルや戦闘機を要して隣国とせめぎ合い、ワールドカップの予選ではザック・ジャパンと好勝負を演じていたりします。
 たとえばケニアの首都ナイロビやネパールの首都カトマンズの街角にあるキヨスクやコンビニには、雑誌や新聞が数十誌並んでいます。これらの国では、政治経済誌もスポーツグラフィック誌もファッション誌も発行されています。もしかしたらUFOの目撃談を集めた超ミステリー誌とか、プロボクシングの専門誌とか、素粒子物理の世界をCGで見せるサイエンス誌も発行されているかもしれません。
 毎年100キロレースに参加するために訪れている沖縄県の宮古島では、日刊新聞として「宮古毎日新聞」「宮古新報」の2誌が発行されています。さらに有力地方紙の「琉球新報」「沖縄タイムス」も販売拠点があり、島の人口5万人に対して有力新聞が4紙、それなりに成り立っている様子です。だから、77万人もが暮らす徳島なら、まだまだ雑誌や新聞は発行できるって理屈が成り立ちます。単純すぎ?
 ほんじゃあ、なんで徳島には新聞も雑誌もこんな少ないんだろう。きっとマーケット規模の都合じゃなくて、作ろうという人が少ないからこうなってるんだろう、ってのがぼくの結論です。
 新聞でも雑誌でも、すごく立派で見栄えがするモノじゃないといけないという印象があって、軽々しくスタート切れそうにない感じがするからかも知れません。
 アメリカ合衆国の地方都市では、人口5〜10万人程度でもローカル新聞が発行されています。ページ数は8ページだったり12ページだったり。ライトに読める分量です。きっとそれくらいの出来事しか起こらないのだと思います。内容はすべて地域の情報です。奥さまが立派なニワトリ料理を作って近所に振る舞ったとか、リトル・リーグの少年選手がドラマチックな決勝打を放ったとか、最近は雨がぜんぜん降らなくてトウモロコシ農家が困っているとか。ぼくたちがマラソンで大陸横断しているという取材もあちこちで記事にしてくれました。
 こういうのって、いわゆるジャーナリズムとはほど遠くて、地域に住んでる人が気軽に読める娯楽ニュースの提供業と言えます。紙面の下部には街のカーディーラーやナイトパブやスシ料理店の宣伝広告が載っていて、充分ビジネスとして成り立っているように見えます。ちなみに配達は、日本のように夜も明けぬ早朝からホンダ・プレスカブ50をぶっ飛ばして配る突き詰めた感じはなくて、日光がさんさんと降り注ぐお昼ごろにのんびりと、配達車の窓から手を伸ばして道路沿いに立っているポストに突っ込んでくスタイルです。
 そんなこんなで、世界のメディア環境と比較すれば、徳島県くらいの経済規模と人口があれば、日刊新聞が10誌、雑誌なら50誌くらい発行されていても、べつだん不思議ではなのかな、と思っています。
 さすがに日刊新聞は大変すぎてやる気しないけど(労働と心労で倒れかねません)、もっと自由にバカみたいな雑誌をたくさん作りたいなあと思うわけです。カルチャーマガジンの編集部なんて、元々どこにも就職できないような遊び人が集まって、斜交いからモノを見て、クドクド御託を述べながら、好き勝手に記事を書きまくるだけの世界だったんだから。
 自由な言論があって、あんましお金がかからなくて、社会に物申したい若者が集まってつくる雑誌。そうゆうのやりたい人、もっといないだろうか。おもしろいヤツ、全国からもっと集めて、もっとふざけた本をつくりたい。
 ということでウチの会社の学生向けの求人広告はこんな←のです。こういった悲惨な求人広告を読んでもノコノコ面接にやってくるくらいのタマなら、いい記事を書いてくれるかもしれません。少しヘンテコなのを集めて、また新しい雑誌をつくろうかなと思案ちゅうです。

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たいした会社ではありません。
四国の小さな街で雑誌を作るという微妙な仕事をしています。
だから「会社に就職」しないでください。

雑誌を読むのが好きで、雑誌を作りたい人だけ集まってください。
世間では「紙媒体はあと30年いや20年いや10年かも」などと評されています。
だから、まかりまちがっても、あなたが60歳になるまで会社が存続するとは思えません。

「じゃーネットやスマホにコンテンツを展開するビジネスをすれば?」ってよく言われます。
興味ないんっすよね。
アタマ古くさいんですよ。ただ雑誌が好きでやってるんですよ。
ビジネスとてして「出版社」を経営してるんじゃなくて、
ただ雑誌をおもしろがって作っているだけなんす。

いつか完全ペーパーレス、完全デジタルな情報社会が地球を覆い尽くす日が来ても、
人類最後の紙媒体編集者として死にたいと思うわけです。
何万年後かに地層から掘り出されたときに、
「助手君、見たまえ。この人骨・・・人類最後の印刷物を手にしているようだの」と博物館に展示されたい。

聞けば聞くほど、わざわざ大学出てまで就職するには向かない会社でしょう。
雰囲気的には、帰らぬ男を待つママがカウンターの隅で酔いつぶれている
時代に取り残された港町の場末のスナックみたいな場所です。

再度。
雑誌を作りたい人だけ集まってください。
人口80万人もいない県で、月刊誌3本、隔週刊誌1本、季刊誌3本、その他もろもろ発行しまくっている
マーケット感覚ゼロ、損得勘定できない、あとさき顧みない、未来がまったく見えてないバカ集団です。

それでもよければ。