バカロードその95 もしぼくが陸連の偉い人になったら

公開日 2016年06月09日

 文=坂東良晃(タウトク編集人、1967年生まれ。1987年アフリカ大陸を徒歩で横断、2011年北米大陸をマラソンで横断。世界6大陸横断をめざしてバカ道をゆく)
 
 陸上競技場に陸上競技を観にいったことがありますか?という唐突な質問からはじめよう。
 ナニ、あるって? あなたはオタクの類です。ふつうは観にいきませんよ。
 国内最高レベルの選手が集結する「日本選手権」、実業団選手のナンバーワンを決める「実業団選手権」ですら観客席はガラガラなんである。一見メインスタンドの客席は半分くらい埋まってるようだけど、飛び交う声援を聞いてると、客の多くが選手の知り合いだとわかる。
 日本選手権なんて入場料たったの1500円で、メインスタンドの最前列で見放題だよ! 実業団のエースと、箱根駅伝のスターと、早熟の天才高校生が、同じステージでガチンコ勝負してんだよ。野球に例えるなら、甲子園や神宮の優勝投手が、プロの4番打者を並べた打線に真っ向勝負するような夢の対決をやりまくってんだ。
 なのに、何万人も収容できるスタジアムはガッラガラ。
 もったいないねぇ。トラックを駆ける福士加代子、言葉で説明するのをためらわせるほどの美しさですよ。ケニアやタンザニアのサバンナで野生動物が疾走する姿を目にして、理屈抜きで心が揺さぶられる感じと同じです。そこでは「しなやかな」とか「宙を駆けるように」とか、どんな言葉を当てはめようとしても陳腐になります。走るために生まれてきたとしか思えない。そうであるがゆえに、逆にモロさまで感じさせる。誰にも理解されない世界で(つまり自分より速い人が誰もいないという意味で)先頭を走り続ける孤独さ、切なさ。
 今は米国オレゴンでワールドクラスの練習を積む大迫傑がまだ早稲田の学生だった頃、2012年日本選手権の10000m決勝で、佐藤悠基にラストの直線で交わされ五輪出場を逃し、トラックに這いつくばって地面を拳で殴りつけ、絶叫した声は、今でも耳の奥にこびりついている。
 これはユーチューブやテレビ中継では感じとれない。
 どんなスポーツであれ、プロ競技者を生で観れば、そのスピード感に圧倒されるものだ。そして、選手の感情を伝える息づかいや表情が、競技場という同じ空気の塊の中に存在していることに夢見心地となる。むろん球技も格闘技も、生観戦は至高の時だが、陸上競技の「速く走る」「高く、遠くに跳ぶ」「遠くに投げる」といった原始的な欲求から生まれる躍動は、テレビ画面を通すよりも、生で観ることが価値をもつ。
 一般道を使う駅伝やフルマラソンの大会では、沿道からトップランナーを観戦することはできる。だけどキロ3分ペースで走ってくる選手を、人垣かきわけ目にできるのは一瞬。100mを18秒ペースだから、視界に入るのが10m幅だとして、通過タイムは1.8秒。まばたきしてる間に通り過ぎてしまう。ましてや集団できたら、誰が誰なんだかわからないうちにドドドッだ。
 陸上競技は、レースのはじまりから結末まで、そのすべてを目撃できる陸上競技場で観るのがイチバンなのだ。
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 さて、長年の疑問なのであるが、市民ランナーやジョガーは国内に2450万人もいるそうなのだが、プロ(実業団)の競技観戦を楽しみにしている人に会ったことがない。
 不思議な現象である。草野球をやってる人は、絶対にプロ野球やメジャーリーグの試合を観てるし、社会人サッカーの選手は、Jリーグや欧州リーグのテレビ観戦は欠かさないだろう。
 草野球プレーヤーにとって、一日の仕事を終えて自宅に帰り、発泡酒のプルリングをプシュッと開けて、好きなプロ野球チームの試合や、ダルビッシュやイチローの登場シーンを観ることは、日々のくらしのなかで最も幸せな時間帯のひとつではないかと思う。
 ゴルフもテニスもバスケもバレーもラグビーも卓球も、すべからくアマチュアプレーヤーはプロに憧れ、自分の実力をよくわきまえながらも、そのスポーツジャンルのトップクラスに在る選手の一挙手一投足が気になるものだ。技術のヒントが欲しいし、試合後の発言には耳をそばだてたい。ライバルとの物語の行く末を知りたいし、怪物と呼ばれる選手の逸話が好き。一流選手が身につけているウエアやギアは、市販されていて手の届く価格なら、わが物にしたい。
 ファンというのは、そういうものだ。
 ところが他のスポーツでは普遍的な、アマチュアプレーヤーがプロ選手の動向や試合を気にするという態度が、アマチュア陸上界にはない。
 川内優輝、高橋尚子、野口みずきら人気選手はいるけど、彼らはジャンルを超えた国民的タレントであり、マラソンに興味のない人にだって知られた存在だ。
 市民ランナーのうちどれ程の人が、プレス工業を辞めて1人で走ってる梶原有高選手の行く末を心配しているだろう。ダイハツの吉本ひかり選手の復活を信じ、宮田佳菜代選手の所属するユタカ技研の部員が大量離脱したことを気にしている人はマレだ。日体大記録会の1日70本以上あるリザルトを丹念に読み込み、ゲーレン・ラップやウィルソン・キプサングのレース速報に心踊らせているジョガーは少ない。
 なぜアマチュアランナーは、プロの試合に興味を持たないのだろう。箱根駅伝の中継は視聴率30%近くを稼ぎ、マラソンの五輪選考会は大騒動を巻き起こして注目されるのに、そこへ至る重要な過程であるトラックレースは、見向きもされない。
 箱根駅伝中継の合間に流れる選手の絆ドキュメントには涙腺をゆるめただろうに、その後の彼らの人生には興味を示さない。なぜなんだろうか。
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 似たような状況に置かれてるスポーツはある。要するに、特定の試合・・・五輪予選や本戦などビッグマッチだけが注目され、ふだんの試合会場は閑古鳥が鳴いているようなジャンルだ。なでしこリーグは試合の半分が観客数1000人を切っているし、年末年始ならドームが満杯になる総合格闘技やプロレス興行は、地方都市だとタダ券ばらまきと選手の手売りチケット以外は売れない。遡れば、Jリーグ前身の日本サッカーリーグだって観客席ガラガラの試合、よくありました。
 その状況から脱したスポーツと、変わらず低迷しているスポーツの差はなんだろう。もったいぶって言うほどのことではない。たった1人の有能なプロデューサーの登場が、劇的にジャンルを動かすのである。
 ドスのきいた掛け声が飛ぶ男臭い空手の大会を、最高のショービジネス「K1」に変えた元正道会館の石井和義氏。サッカースタジアムの客席に、若い女性や子供、地域住民を導いたJリーグの川淵三郎氏。コンプレックスの塊だった一人のアゴの長い若者に世界最強と名乗らせ、金曜夜8時の視聴率を独占した元新日本プロレスの新間寿氏。
 競技全体をプロデュースできる手腕に長けたプロの商売人が1人現れたら、閑古鳥舞う客席は熱狂が取って代わるのだ。
 この役回りには、そのジャンルで現役時代にトップを張った人や、競技の指導者として実績を上げた人は向かない。組織をマネジメントしたり流行を創りあげたりする能力は、自分の身体をコントロールする能力や他者の才能を伸ばすコーチング力とは別物だからだ。
 ジャニー喜多川氏や秋元康氏がアイドル出身である必要はない。歌手出身じゃないから、ステージ上からではなく、客席側から商品のアイデアが生まれる。 観客の目線で商品価値を見定め、観客が何を欲しているかを考える。
 日の目を見ない良質なコンテンツや優良なキャラクターを世間に浸透させ、爆発的に人気を呼ぶには、カリスマ的プロデューサーの存在が欠かせない。このような人材が、陸上競技界には不在である。今は、青山学院の原晋監督がその位置に納まろうと意識的に大言壮語を発している。うつけ者は潰してしまわず、まつりあげて仕事をどんどんしてもらえばいい。
 陸上競技の面白さは抜群である、と全スポーツ観戦マニアのぼくが断言する。選手個々のキャラクターや、幼い頃からのストーリーなどの優良コンテンツ(物語)にも事欠かない。ジュニア競技チームからはじまる優秀な選手育成システムができあがっていて、2450万人という膨大な数のアマチュア競技者がいる。
 「日本選手権」を観に5万人が集まる要素は、他のスポーツに比べれば遙かに整っている。有能な仕掛け人さえいれば、可能だ。
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 さて何やらエラそうに書いているわけだが、「お前は何様だ」と問われれば「熱心なファンだ」と答えよう。何しろ熱心なファンは最強なのだ。ほら、阪神ファンの誰しもが、外野席や赤ちょうちんの店でタイガースの監督になる権利を有しとるでしょう? ファンとは、全競技団体、全アスリートの頂点に立つ権利を持っているのである。脳みその中は自由なフィールドが広がっていますからね。
 ・・・というわけで、誰に頼まれることなく勝手に陸上界の未来を案じる私めが、もし自分が陸上界のプロデューサーになったらどんな改革に取り組むかをご説明さしあげたい。
 
 
【着手①】日本選手権をド派手にする
 
 PRIDE GRANDPRIXの場内アナウンスで有名な女優レニー・ハートが選手呼び出しを担当。
 「フロォム、サアイタマァー、シターラァァァァァァァァ、ユウゥゥゥゥゥタァァァァァ!」(埼玉出身、設楽悠太入場!)
 オープニングや競技の合間には、モモクロや三代目J Soulら派手目のパフォーマンスを入れる。
 ナニ、ふざけんなって?
 そんなの他のスポーツじゃあたり前にやってることだ。アメリカ 最大のスポーツイベント「スーパーボウル」には時の全米ナンバーワンのミュージシャンがスタジアム全体をエンタテイメントの極致とするし、世界最大のスポーツビジネス「ツール・ド・フランス」では、選手の集団が来る何時間も前から商業カーが街を練り走り、沿道をお祭り気分に塗りかえていく。
 今、陸上競技大会を仕切ってる人は、「客を楽しませよう」という視点がないんだ。陸上競技のおもしろさに気づいてない層を、ムリヤリにでも競技場に引っ張って来ようって浅ましさに欠ける。
 ものはついでだ。テレビ中継の放映権をNHKから民放に移行しちまえ。
 日本選手権は国内最高峰の舞台であるにも関わらず、NHKの番組づくりが地味すぎてまったく盛り上がってないからさ。
 進行役としては、フジテレビの青嶋達也(サッカー、競馬、自転車競技のアナウンスで有名)や、NHKの小野塚康之(高校野球中継でおなじみ)レベルの人材にアナウンスをつとめてもらおう。ただ進行するだけの役目じゃなくて、情熱がないとな。
 古舘伊知郎や松岡修造をフィールドリポーターにして、「盛りあげ役」を担ってもらおう。織田裕二はNGですよ。
 競技解説は、真面目すぎな現役コーチ陣ではなく、お茶の間エンタテイメントを理解している人材を選ぶ。
 増田明美は恋愛とスイーツネタを散りばめ、為末大が哲学的すぎで視聴者を置き去りにする難解解説を。
爆弾発言を期待して新谷仁美もしくは福士加代子のぶっちゃけトークを。セルジオ越後的な辛口批評は中山竹通にお願いしよう。
 トラック競技とフィールド競技のテレビ中継を混在させてはならない。どちらの競技者、どちらのファンにとっても最悪の進行だ。
 式次第にもどろう。
 表彰式は今みたいに競技の合間に、録音ミュージック流してチョコチョコやるのはダメ。ヒーロー、ヒロインの扱いとして寒々しい。全日程を終え、フィールドをナイターが照らしだす中で優勝者をアナウンスコールし、サッカーW杯みたいに紙吹雪をジャンジャン降らせて盛大に祝うのだ。花火師を本場・大曲から招いて、バンバン六尺玉を打ち上げてやろう。
 新国立競技場でやれば、花火見学の観客で7万人は集まる。入場料1500円でも1億円の興行収入になる。花火代、ミュージシャン出演料、ステージ設営費くらいは、この1億円でまかなえる。
 最初は陸上競技に関心のない客でいいのだ。レースを見せれば、3割の人はファンになりリピートする。それだけの魅力、絶対にあるから。
 
【着手②】マラソンの代表選考レースは「ワールドマラソンメジャーズ」を指定する。
 
 マラソンにおけるワールドカップの位置づけにある「ワールドマラソンメジャーズ」。現在、ロンドン、シカゴ、ボストン、ベルリン、ニューヨークシティ、東京と、世界6大会が傘下にある。
 結局さ、いくら「日本人で世界と戦える選手を」とか能書きぶっても、男子世界ランキング100傑のうち95人がケニア・エチオピアで占められていて、トップクラスの選手は賞金で稼げるこの6大会にしか出ないのだ。
 日本人って、オリンピックや「世界陸上」が世界一を決める大会って信じこんでるけど、実際んとこ違うよね~。あれは真夏の気温35度のなかで、揺さぶりあっこに最も強い選手をタイネスランナー世界戦だ。ずいぶん特殊なリースです。
 日本人より速いランナーが100人以上は確実に存在するケニア人やエチオピア人、あわせて6人しか出られないしさー。そこで入賞した人が「世界6位のランナーか」って言うと何かが違う。
 ほんとに「世界と戦える選手」見つけ出したいのなら、国内レースで二流どころのエチオピア人選手に誰もついていかず、日本人一番を地味に競うのなんて止めた方がいい。
 日本のマラソンは、円谷・君原・宇佐見の時代からずっと世界と戦ってきたのだよ。カーリングでも、スキーのジャンプ競技も、フィギュアスケート、競泳だって、日本人が世界に挑む姿を見て、たとえ結果が出なかったとしても皆が応援したくなるのである。最初から外国人選手と勝負する気がないなんて、スポーツ選手としてヘンである。
 いや、実際は日本人、世界に行けば十分戦えるのである。ここ数年でも2011シカゴ(五ケ谷7位)、2013ロンドン(赤羽3位)、2013ベルリン(石川末廣7位)、2013ニューヨーク(今井6位)、2015ベルリン(五ケ谷9位)、2015ニューヨーク(川内7位)と上位入賞している。
 むろん福士は凄いよ。2011シカゴ3位、2014ベルリン6位、2015シカゴ4位だ。
 この順位は幾人もの東アフリカ選手を破っての快挙なのだが、我が国ではテレビ中継されることは超レアで、一般に称賛されることはない。JR東日本の五ケ谷宏司は世界と戦える逸材であり、V6の岡田くんに似てるにも関わらず、まったく目立ってない。
 「ワールドマラソンメジャーズ」で世界のトップと競って、そこでどう戦えたかで代表選手を決めるべきである。ワールドクラスの大会で活躍するより国内競技会で勝つことに価値があるなんて、他のスポーツ競技ではありえない現象だ。
 こういう論が出ると「国内選考6大会」のテレビ局の広告収入が減ったり、ひいては陸連の収入源である放映権料が減って、選手の育成費用に影響が・・・という反論が起こるが、要するに「国内6大会」に流れている金を、世界レベルの大会経由に流れを変えるという話なのである。
 「東京マラソン」以外の5大会の放映権を、民放に買わせる。民放が食指を伸ばすのは、企業が宣伝価値があると見なすコンテンツであり、そのためには、世界選手権や五輪の選考レースを「ワールドマラソンメジャーズ」6大会の獲得ポイントや順位で決める必要がある。
 一方、トラックやフィールド競技に目を移すと、国際陸連がやってる「IAAFダイヤモンドリーグ」は、世界10数カ国を転戦する「F1」スタイルを採り入れて成功している。欧州10都市、米国で2回、あとは中国とカタールでやっているのは、財政的に豊かで広告スポンサーが穫れる都市を選んでいるのだろうが、同時にスタジアムはおおむね満席である。欧米では、陸上競技がこんなにもステイタスを誇っているのにと、国内大会のガラガラ観客席と比べてガッカリする。
 さんざ、代表決定システムの話をした後にちゃぶ台ひっくり返すけど、ほんと日本人って、昔っからオリンピックに肩入れしすぎなんだって。ベルリンの壁が壊れる前の東欧諸国じゃあるまいし、今さら国威発揚なんて必要ないんだから。サッカーもラグビーも五輪なんてお祭りであって、競技独自のリーグ戦の方が本戦であり真勝負の場じゃないか。マラソンもそうしましょう。
 
【着手③】駅伝をグローバル・スポーツにする。
 
 日本生まれの駅伝を世界的な競技へと成長させる。そのためにエキデン・ワールドカップを行う。
 ジュニア、ユース、シニア、男女混合などの部門を設け、各国で予選を行い大陸代表を決める。
 エキデン・ワールドカップ世界大会は、駅伝競技の総本山ともいえる東京大手町~箱根芦ノ湖間で行う。優勝国やMVP選手には1億円の賞金を付与する。ワールドマラソンメジャーズの年間王者ですら賞金は5000万円程度である。トップ選手は個人レースよりもエキデン・レースをメインに考えはじめるだろう。
 駅伝の強みは、「道具がタスキ1本だけ」という点である。ボールも、コートも、高額なスポーツギアも必要がない。つまり、これから発展していくアフリカやアジア・環太平洋地域の小国の人々にも受け入れられやすいスポーツである。
 そして個人競技手はなく、国旗を背負った団体競技であるということも追い風になる。20年、30年スパンでこの競技に本腰を入れてくるであろう発展途上国を有望市場と見なしているわが国の資金潤沢な大手企業・・・ファーストリテイリング、味の素、スズキ自動車、コマツなどにとれば、優勝賞金として1億円、2億円程度を用意するのは容易いものである。広告の費用対効果としては安すぎる。ちなみにソフトバンクが国内男子バスケリーグに拠出するのは4年間125億円である。
 柳井さんや孫さんのポケットマネーで、世界中の若者が夢を見られるのである。 
 
【着手④】「実業団」という名称をやめる。
 
 そもそも「実業」って何だかよくわからないし、語感が古くさすぎるんだよ。「私の恋人は青年実業家です」なんて昼メロドラマの台詞にあったのは昭和40年代くらいまでじゃないの? 「実業」って言葉の意味もよくわからないし。「虚業」の反対語?
 プロ野球選手やJリーガーのように、球団に対して選手が個人事業主として契約しているのではなく、陸上選手と所属企業は、使用者と従業員という労使関係上にあるのだろう。だからプロ選手とは呼ばれない。
 雇用契約を結んでいるのであれば、「あなた選手として先がないから年度末でクビね」とはいかなくなる。だからプロ契約者より、雇用が守られるという点で選手にメリットが大きい。これは、スポーツ選手を単なる広告塔として扱わない、世界に対して誇れるシステムだと思う。
 だけど、その選手たちが戦う相手は、アフリカやカリブの賞金稼ぎや、スポンサード契約料で生きるプロ中のプロなのである。勝たなければ1円も手にできず、騙し騙されのレースを年中やってる猛者と、月給をもらい雇用が守られているサラリーマン。勝負に持ち込むのは難しいわな。
 でもさ、せめて意識だけでもプロフェッショナルでいようよ。藤原新が「プロランナー」、吉田香織が「市民ランナー」って呼ばれてるのは違和感あるんだよ。雇用が保障されようとされまいと、その世界でメシ食ってたら世間では「プロ」なんだよ。日本のサラリーマンは全員、各々の業界の「プロ」なんだ。だから半分プロ、半分アマみたいなポジション曖昧な「実業団」という名称、やめよう。
 
【着手⑤】有望なジュニア選手を日本から追い出す。
 
 サッカーのジュニア選手育成には、すでに国境がなくなっている。有望な子供は10歳にも満たない頃から、リーガ・エスパニョーラ(スペイン全国リーグ)チームの下部組織が世界中でスカウティングし、育てている。
 陸上選手も、国内で育てるのではなく、スプリンターはカリブ海や米国、中距離走者は欧州、長距離走者は東アフリカ、投てきや跳躍は北欧・ロシアと、どんどん留学させる。日本のように整った練習環境ではなく、雑草の生えた運動場や、石ころだらけの赤土の道を走る。栄養士が食事管理をするのではなくて、自分の頭で考え、自己管理できる人格を形成させる。
 日本人選手は、大舞台でメンタルが弱すぎる。世界大会に日本料理のコックなんて同行させてはいかん。よその国の選手は、五輪の選手村で公式コンドーム使いまくってアドレナリンをドバトバ出してるんだから。日本人が好むエピソード・・・大会前夜の奇跡のミーティングで選手間の絆が高まって・・・なんて話、甘チャンすぎるよ。話あわないと戦う気がピークにならないなんてキモいよ。
 これからの若い日本人選手はさ、「海外遠征」とは名ばかりの日本人が団体で海外に出かけていって、同じレースに出るやつ・・・たとえば米国の「カージナル招待」とかベルギーの「ナイト・オブ・アスレチクス」とかばかりを選ぶのはやめよう。かつて為末大や朝原宣治が挑んだように、選手単独で欧州の競技会を転戦し、武者修行をさせよう。
 宿や練習場所の確保も、レースのエントリーも自分でやれば大抵のトラブルなんて平っちゃらになり、デコボコに波打ったトラックでもトップスピードで走れるようになる。
 10代の頃から、「この競技でのしあがってやる」「宮殿みたいな豪邸を建てて親を住ませてやる」みたいなガツガツ飢えた連中と、本気のレースをなんべんもさせて強くするのだ。
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 くだらない妄想と笑いたいヤツは笑え。週3は徹夜で朝までスポーツ中継を観てる全スポーツ観戦マニアのぼくが断言する。陸上競技こそ最高に面白いスポーツなんだ。大迫傑が帰国し、モハメド・ファラーやゲーレン・ラップと戦う凱旋レースを満員のスタジアムで見届けたいんだ。最高のショーには、最高の舞台が必要なんだ。
 
 
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陸上競技場で試合を見よう!
2016年、主要大会ですよ!
 
4/2 金栗記念選抜陸上中長距離(熊本)
4/24 兵庫リレーカーニバル(神戸)
4/29 織田幹雄記念国際陸上競技大会(広島)
4/30-5/1 日本選抜陸上和歌山大会(和歌山紀三井寺)
5/3 静岡国際陸上競技大会(静岡)
5/7 ゴールデンゲームズinのべおか(宮崎延岡)
5/8 セイコーゴールデングランプリ陸上(神奈川川崎)
6/24-26 日本陸上競技選手権大会(毎年転戦、今年は愛知)
7/10 南部忠平記念陸上(北海道厚別)
7月に4戦 ホクレンディスタンス(北海道士別、深川、北見、網走)
9/2-4 日本インカレ(毎年転戦、今年は埼玉熊谷)
9/23-25 全日本実業団対抗陸上競技選手権大会(毎年転戦。今年は大阪長居)