バカロードその126 2018スパルタスロン2 0勝8敗、勝算なし。後がなくなった人がやるのは・・・

公開日 2018年12月21日

文=坂東良晃(タウトク編集人。1987年アフリカ大陸5500km徒歩横断、2011年北米大陸横断レース5139km完走。人類初の自足による地球一周(喜望峰→パタゴニア4万km)をめざし、バカ道をゆく)

(前号まで=毎年9月下旬、地中海に面したギリシャで行われる総距離246.8km、制限36時間の超長距離マラソンレース・スパルタスロン。何度挑戦しても完走できず、8年連続リタイア中である)

 50代に足を踏み入れると、老化の加速度がぐんと増した。元からの極度の近眼に老眼が混じりはじめて、遠くも近くもカスミがかかったように白い。米びつの米を床一面にひっくり返したり、料理を載せた盆を流し台に中途半端に置き、空中一回転させて台無しにするくらいはフツー。頭のキレが鈍いのは仕方ないとして、小便のキレの悪さは許しがたい。いつ果てるともしらずチョロチョロとこぼれ、ナニを振りに振って慎重にパンツにしまっても、そのあとチョロっと漏れるコイツが憎い。
 こんな調子では、体力が激落ちしてくのは確実で、スパルタスロン完走なんて一生ムリだろねと認識するのはそう遠い日ではない。そもそも参加資格の100kmを10時間以内だって僕には難関であり、毎年サブテンを続けられるとはとうてい思えない。つまりスパルタ完走どころか出場だって危ういのである。
 こんな風に途方に暮れるばかりで、打開策はまったく見つからない。
 1年をスパルタを中心に廻しはじめて何年経ったか。スパルタのために練習し、体重を減らし、レースに出て参加資格を取る。メシを食うのも、うんこするのも全部スパルタのため。他人の目にはヤバイ人としか映らない謎な特訓もやった。全速力で10km走ってカルピスソーダを一気飲みして嘔吐する「ゲロ吐き慣れ特訓」に、寝落ち対策には徹夜ラン中に「安全ピンで乳首を刺す、涙がでるまで往復ビンタする、キロ4分半で絶叫走りする」など。
 ただの趣味にこんなに追い込まれてる中年、自分の目にもやっぱしヤバイ人。
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 今年は参加する大会を減らした。走りすぎると慢性疲労が抜けないのである。レースに出ると、まともにジョグ再開できるまで3週間はかかるので練習不足になる。レース後に体重が3~5kg増えてしまう珍現象も悩みのタネだ。元の体重に戻すのにひと苦労する。
 3月小江戸大江戸204km、5月は出雲市まで個人ジャーニーラン250km、6月柴又100kmとサロマ湖100km、7月みちのく津軽188km、8月神戸24時間走145km。脈絡なさげな並びだが、目的はひとつだけ。序盤の100kmをキロ6分~6分30秒で走れる平坦なコース設定の大会ばかり選んだ。スパルタスロンの0~100kmを、十分な余力を残したうえで10時間台で入れるよう、身体を慣らしていくのだ。ってことで序盤に峠越えがあったり、スタートすぐに夜間走になる大会は除外した。
 みちのく津軽と神戸24時間走は、例年気温が33~38度とクソ暑くなる大会。コース上に日陰が少なく直射日光にさらされっ放しなので、暑熱順化にほどよい。ついでに職場のデスクをエアコンのない倉庫に移した。夏には室内が32~33度になる。南側の壁の近くはもっと暑い。澱んだ空気の中で脂汗を流しながら仕事して、スパルタ本番の35度前後を「爽やか~♪」と勘違いする作戦。
 毎日の練習量は12km~20kmまでに抑え、とにかく老化しつつある身体をいたわる。速く走ると本当に疲れてしまうのでペースはキロ6分30秒~7分で。「そのまま100km~120kmまで持続できる」よう頭の中にイメージを繰り返し描き、空中で遊脚を休めながら、着地のたびにフニャフニャ脱力する。
 基礎スピードが全面的に枯れてしまうとマズイので、ジョグのラスト1kmだけ4分00秒~10秒まで上げて日課の練習はおしまい。
 さて食べる方。生物学者・福岡伸一の著書に「体を構成する分子は、半年も経てばすっかり食べたものと入れ替わる」という話があって、それ以来、めちゃめちゃメシを食うようになった。
 ごはんはドンブリに山盛り2杯以上、水は1日2リットル。腹十二分目になるまでたくさん炭水化物と水を摂る。米をたっぷり食らうと、翌日は脚の回転がくるくる軽い。アイスクリームは1日5本~10本。レギュラーはセンタンの白くまマルチとパピコ大人のあずき。これをヨーグルトに浸しながらしゃぶる。糖質と炭水化物が小腸の絨毛から血管に取りこまれ、全身を駆け巡るとしあわせ感で満たされ、ミトコンドリアがプルプルもだえて脂肪が燃焼していく。糖質喰らいダイエットばんざい!
 水はスパルタスロンのエイドで出してくれるヨーロッパの硬水にあわせ、evianやcontrexなどの超硬水を箱買いしガブ飲み。「硬水に慣れるため」っていうより、ペットボトルのラベルに書いてあるアルプスやピレネーの取水地の説明を読んでいると、内なる気合いが高まってくるのだ。
 もうね、いろんな作戦と特訓やり尽くして、方法が見えなくなってるんですよ。人はあとがなくなったら爆食いに走るんっス。ぜんぶの細胞に取って代わる白くまアイス頼みだから! (つづく)