野宿考2

公開日 2008年01月09日

つづいて放浪者にとって何がベストな寝具であるかを検証したい。
(☆☆☆☆☆)段ボール
 野宿者の最強アイテムである段ボール。ぼくはこれ以上の素材にめぐり会ったことがない。その保温力への評価は述べるまでもないが、他の素材にはない「吸湿性」が最大の利点である。いくら寒くとも、人間は呼吸をしたり肌から水分を放出するので、ビニル・ポリエチレン類は湿気が内側に溜まってしまうのである。湿気は不快さをともない、また外気が摂氏0度以下のマイナスであれば、パリパリに凍ってしまう。
紙製の段ボールにはその不安要素がない。また工作が簡単であり、筒状にして小部屋を作ったり、更にその筒を二重にして防寒性を高めることもできる。ぼくは野宿をする2時間ほど前から、適切な大きさの段ボールを探しはじめる。ショッピングセンターが建ち並ぶ幹線道路では苦労せず見つけられるが、山間部ではなかなか発見できないこともある。そんなときは迷わず村の人に話しかけてみよう。「野宿するので段ボールいただけませんか?」と。けっこう気やすく恵んでくれるし、時には「そんなことせず家に泊まって行きなさい」と招いてくれる親切な人にも出会う。

(☆☆☆)プチプチ
 保温性は最高級なのだが、吸湿を一切しない。したがって眠りはじめてすぐに体がベトつきはじめるのを感じる。顔まで覆うと呼気の中に含まれる蒸気が全身にまわり不快だ。それ以上に問題なのが、プチプチに覆われた寝姿を誰かに見られたら、変死体だと勘違いされ、通報される恐れがある点。温かいからといって安易に体に巻きつけない方がよいだろう。

(☆☆☆☆)ブルーシート
 段ボールが見つからないときに活用するのがブルーシートである。プチプチ同様に吸湿性はないが、ブルーシートなりのメリットがある。あの硬い生地のおかけで、簡単に住居スペースが作れるのである。シートを何枚か重ねて敷き布団とし、自分の身体が入るくらいの空間分を三角状にシートを持ち上げ、簡易テントを作ってしまえる。

(☆☆☆☆☆)古毛布、古布団
 毛布なんてどこで調達できるのよ?と疑問に思われるだろうが、なぜか道ばたによく落ちている。おおかた不法投棄なのだろうが、放浪者にはありがたい。防寒具としてのレベルはもちろん最高クラス。ふつうの人って、こんな快適なものにくるまれて眠っているのかと羨ましくもあり、ふつうの生活が恋しくなり放浪生活を脱したいとのホームシックにも似た思いがよぎる。

(☆☆☆☆☆)発砲スチロール
敷き布団の代用品として最高の品質。弾力といい保温性といい非の打ち所なし。体全部をカバーできるほどの面積分を確保するのは難しいが、破片を集めてベッド作りにいそしもう。漁港のある海沿いの街なら集めやすいぞ。

(☆☆☆☆☆)干し草、ワラ
 酪農が盛んな地域には、干し草が様々な形状で積み上げられている。ブロック状であったりロール状であったりするが、いずれにしてもそのすき間に体を潜りこませ、草の破片で空間を埋めれば、得も言われぬ温かさを確保できる。干し草は、冬場でもその内部で少しずつ発酵が進んでおり、かすかに熱も発生させている。草のコンディションにもよるが大変温かい干し草に遭遇することがある。

 人はどのような状況に立っても、自分が現在置かれている環境が若干でも改善されれば幸福感を得られ、悪化すれば不幸を感じる。職場をうばわれ絶望する人もおれば、「就職しろ」と家族に迫られ親族を殺してしまう人もいる。人間という生物の心の中にはいろいろな不幸が存在するんだけど、「ワラの山を見つけるだけ」で星野ジャパンの選手並みの高揚感を得る幸せな人間もいる(ぼく)。
 人間、もともと何も持っていないってことを前提にすれば、小さな所有で多幸感に満ち、何かを失ってもダメージがない。得ても失ってもこの身ひとつと思えば、無常の人生を生きられる。