熱砂に汗がしゅみこむのだ サハラ、目に映ったもの

公開日 2009年04月30日

文=坂東良晃(タウトク編集人)

 レースは終わった。
 5日間を表現するにふさわしい言葉があるだろうか、否。
 サハラ砂漠で繰り広げられたランナーたちの戦いを、ひとつひとつ描写するには、あまりにぼくの文章力はとぼしい。

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 たとえば、足の皮フを破りながら、応急処置の人口皮膜を貼り付けただけの足の裏で、砂漠の熱い砂を何万回と踏み続けるランナーの痛みや心情や、それを乗り越えていく魂。ぼくはそれを表現するにふさわしい言葉を持たない。
 重篤な病を克服するために、あるいは家族にチャレンジする背を見せるために、自らの勇気を最大限に試す場所としてこのレースを選び、何年もの準備期間とトレーニングを積んで集まってきた人びとの偉大さに対し、頭をひれふすしかない。
 「過酷な砂漠を走り、自分と戦うレース」としか認識せず挑んだサハラマラソンに、想像もしない大きな熱い熱風の塊をガツンとぶつけられた。レースの詳細を日記風に記録することも・・・やめにしとこう。何をどう書こうと、現実に目に映った人間のドラマ、感情、エネルギーの爆発に対しては陳腐のものでしかない。

 日本に帰り、温かい布団の上に寝ころぶと、苛立ち、いや怒りに近い感情に支配される。もっといいレースができたのではないか。限界ギリギリの走りなんて程遠かったのではないか、という後悔だ。レース3日目、91キロの長丁場ステージの途中でぼくは、完全なるハンガーノック(枯渇)を迎え、意識を失った。失神なのか睡眠なのかわからない。目を覚ましたときには、おそらく200人以上のランナーに抜かれていた。再び走ろうとしても、身体のなかに燃せるべき原資が感じられなかった。そしてゴールまでの残り30キロを歩いた。後ろからぼくを追い抜いていく多くのランナーが救いの手を差しのべてくれた。結局、歩きにつきあってくれた2人の日本人ランナーの力を借りてゴールまでたどりついた。走りはじめて19時間近く経った早朝4時だった。
 今思う。あれは本当に「枯渇」だったのかと。ハンガーノックを理由に自分を許したのではないかと。肉体へのダメージを理由に、ぼくは走るべき場面で歩き、歩くべき場面で立ち止まった。それが悔しくてならない。

 高い壁に挑戦する人びと、人生を謳歌する偉大な人びとに出逢えた。そして、限界まで追求できなかった自分の弱さに絶望した。それがサハラ砂漠での5日間だった。観客として感動し、ランナーとして、人間としてへこたれた。何も終わっていない、何の満足も達成感もない。これからがはじまりである。

第24回サハラマラソン
開催地/北アフリカ・モロッコ
開催日/3月30日〜4月3日
出走者/39カ国・807人

各ステージおよび総合成績
ステージ1 33km 4時間31分40秒 278位/807人
ステージ2 36km 4時間48分00秒 177位/805人
ステージ3 91km 18時間48分50秒 401位/797人
ステージ4 42km 5時間06分13秒 206位/774人
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総合   202km 33時間14分43秒 310位/807人