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2011年12月

  • バカロードその42 100キロマラソンへの誘い
    文=坂東良晃(タウトク編集人、1967年生まれ。1987年アフリカ大陸を徒歩で横断、2011年北米大陸をマラソンで横断。世界6大陸横断をめざしてバカ道をゆく)

     78万人徳島ウルトラマラソンランナーの皆さん、いよいよウルトラのシーズン開幕ですよ!
     ナニ、ちょっと気が早いんじゃないかって? いやいやそんなことありません。100キロレースは5月〜6月に集中しており、エントリーは主に1月から始まります。
    気分的には完全開幕パンパカパンです。6月までに開催される主要100キロレースをあげてみます。

    1月15日 宮古島100kmワイドーマラソン(沖縄)
    3月10日 小豆島・寒霞渓100kmウルトラ遠足(香川・初開催)
    3月24日 伊豆大島ウルトラランニング(東京)
    4月22日 奥熊野いだ天ウルトラマラソン(和歌山)
    4月22日 チャレンジ富士五湖(山梨)
    5月20日 星の郷八ヶ岳野辺山高原100kmウルトラマラソン(長野)
    5月27日 えびす・だいこく100キロマラソン(島根)
    6月02日 しまなみ海道100kmウルトラ遠足(広島・愛媛)
    6月02日 阿蘇カルデラスーパーマラソン(熊本)
    6月10日 飛騨高山ウルトラマラソン(岐阜・初開催)
    6月10日 いわて銀河100kmチャレンジマラソン(岩手)
    6月17日 隠岐の島ウルトラ100km(島根)
    6月24日 サロマ湖100kmウルトラマラソン(北海道)

     ハァハァハァ、よだれがたれてきませんかー! 極上の美肉が何種類も目の前に差し出されてる状況ですよ。あたしを食べてと脂をしたたらせているんです。たまらんたまらん。
     42キロのフルマラソンでもなく、250キロのロングディスタンスでもない。100キロには独自の魅力があります。100キロがどうしてそんなにヨイのか。基本的なとこから押さえていきましょう。
     まず、心拍数をそんなに上げなくてもいいってとこが魅力です。
     フルマラソンに参加するランナーは達成すべき目標タイムを胸に秘めてレースに挑んでいます。自己ベスト記録を目ざすなら心肺を強烈に追い込んだ状態で3時間、4時間と走る必要があります。心拍数だと150〜180拍/分くらいかな。日常生活では経験しないレベルの負荷を心臓にかけてます。重い敷き布団を庭に日干しするくらいの労働では心拍はこんなに上がりません。有酸素と無酸素のボーダーを綱渡りし、息もたえだえ、オノレの限界を超える! フルマラソンにもいろんな楽しみ方あるけど、それなりに走り込んだランナーの42キロという距離への向かい合い方はこうだと思う。
     一方、100キロマラソンの運動負荷は120〜150拍/分で十分です。これより心拍数を上げてしまうと、半分の50キロも行かないうちに潰れてしまいますから。120拍/分程度の強度の運動なら、周囲にいるランナーとチンタラ会話をしながら走り続けられます。このイージーさが良いのです。
     フルのレース中、1キロのペースが3秒遅れるだけでショックを受け、挽回を期して走っているランナーに対して、「そのシューズ超かっこいいですね、おろしたてですか?」とか「次のエイドって、アンパンありましたかね。ぼくは粒あんに目がありませんでねぇ」なんてのん気に話しかけたらひんしゅくです。
     100キロマラソンではフルほど追い詰められた雰囲気がないため、レース中盤以降は周囲のランナーと世間話を交わしながら走る場面が増えてきます。今まで出場したレースの思い出に始まり、ゴール会場に生ビールが売ってるかどうか、愛娘が連れてきたイケ好かない男の話まで、いろんなテーマを語りあい共にゴールを目指します。
     70キロすぎて周りにいるランナーとは、抜きつ抜かれつの関係になります。ここまで同じペースってことは走力的には似通ったものだから、「お先に」と恰好よく先行したつもりでも、何キロか先で「また会いましたね」と追いつかれます。同じ走力のランナーとは、別の大会でも似たような位置を走ることになり、何度か再会を果たすうちに戦友と化していきます。
     市民マラソンブームはウルトラマラソンの世界にも波及していて、最近はメイク直ししながら走ってるギャルやら、ふだんは引きこもっているというニート君もいてバラエティに富んでいます。基本的にはマァ、ハイテンションで元気でユニークな人たちです。住んでる場所も、人生の歩み方も違う、マラソンでもなけりゃ絶対に遭遇することのない人たちと、旧知の仲のようになっていきます。
     そんな100キロでも、一応ランナーたちは目標タイムを設定しています。時間内完走が最初の大きなハードルです。100キロレースの制限時間は長い大会で16時間、いちばん短いサロマでも13時間です。途中、歩きを交えても、諦めなければ達成できるタイム設定です。特別に屈強な身体やスピードを持っていなくても、休まずにトコトコ走り続ければ、誰しもが完走しウルトラランナーという称号を得ることができます。がんばれば達成できる目標だけど、相当がんばらないとゴールまでたどり着かないというスレスレ感が人の情感を強く刺激するのかもしれません。実力のある人は、サブイレブン、サブテン、サブナインと、1時間刻みで目標を上げていきます。10時間を切り9時間台に突入する「サブテン」はウルトラランナーにとって大きな勲章ですが、フルマラソンのサブスリーほどの難関ではありません。キロ6分を淡々と刻んでいけば達成できる記録です。研ぎ澄まされた運動能力がなくても、がまん強さや地足の強さでカバーできます。サブテンをクリアした暁には、まだ達成していないランナーから「サブテンですって、すごい!」と一瞬だけ尊敬してもらえる場面があるのが嬉しいところです。一瞬ね。更にその上の8時間台に突入する「サブナイン」は、一般ランナーには雲上の世界です。フルのサブスリーに匹敵する難易度でしょう。
     100キロのベストタイムを狙いたい時は、コースがほぼ平坦なサロマを目標レースにする人が多いようです。一度サロマで出してしまった記録を、他の大会で塗り替えようとすると大変です。フラットコースの大会は他には思い当たりません。100キロの大会の多くは、コース中に大変な山越えが組み込まれています。標高500メートル級の峠越えや、累積標高1000メートルを超すアップダウンが待ちかまえています。ただでさえ距離が長いのに、見上げるような登り坂や、ヒザが砕けるかという下り坂を走らされるわけですが、ウルトラランナーたちは坂道が好きな人が多いように見受けられます。前方に峠道を発見したら盛り上がっている人が少なからずいます。ぼくも最初は何が楽しいのかわかりませんでしたが、今は坂道が好きです。何か大きな壁を乗り越えたいから、誰に頼まれもしないのにわざわざ100キロなんて走ってるわけで、そんな性癖の持ち主なら、急坂はアンジェリーナ・ジョリーのくちびるぐらい魅力的に見えているのかも知れません。
     100キロの大会では市街地を走ることはほとんどありません。海岸線や山岳地帯や田園の中の細い道を、交通ルールを守って走ります。走るのは車道ではなく歩道部分です。競技にかかる時間が長すぎて、一般車道を通行止めにして行うフルマラソンのようにはいかないからです。当然、交通規制はされてないので車がビュンビュン横を走っています。もし交差点の赤信号に差しかかったなら、行儀よく青信号を待たなくてはなりません。だからあまりアセッてタイムを狙っても仕方ないのです。
     そんなのんびりした100キロマラソンでも、さすがに60キロ、70キロを越えたあたりから身体のあちこちが悲鳴をあげはじめます。壊れやすい部位は、ヒザ、股関節、足首、足の裏あたりでしょうか。ちょっと太めの人は、揺れつづけた腹の脂肪と筋肉のつなぎ目が痛いなんて言いますし、下をうつむいて走る人は首の後ろがカチコチになります。腕ふりを力強く続ける人は二の腕に筋肉痛が起こります。衣類と皮膚がこすれやすい股間、おなか、脇の周辺は、赤く衣擦れし、ヤケドみたいにヒリヒリ痛みます。
     標高の高い場所や吹きさらしの海辺を走るため、気候の変化も激しいです。30度を超す酷暑、残雪を横目に走る酷寒は通常コンディションの範疇です。土砂降りの雨でも身体が浮き上がる大風でも、大会が中止になることは滅多にありません。
     苦しさのあまり何度も走るのを止めようと思い、自分を納得させられるリタイアの理由を考えます。ちょろっと足を踏み外して崖から1、2メートル落ちて、捻挫してみようかなんて危険な考えを抱きはじめたりします。時折、追い越していく選手収容バスの車中に、関門で引っかかったランナーの影を見、羨望のまなざしを送ったりします。収容バスに憧れるあまり、ちょっとペースを落として、わざと関門に引っかかってみようか、なんて悪い心も芽生えます。100キロレースでは、自分の心の奥底にしまわれていたダメな部分がすべて白日の下にさらけ出されるのです。そのたびに「自分はこんなに弱いのか」とガッカリします。それでもあきらめずに走り続けているうち、「自分はこんなに強いのか」と若干見直してみたりもします。
     ゴールしたときの気持ちは、100人おれば100通りの感慨があると思います。ぼく個人としては、毎回ガッカリしながらゴールラインを越えています。専門のカメラマンがゴールシーンを撮影してくれているので、せっかくだしガッツポーズは取りますが、「あーあ、またダメだった」と思いつつ手をだらしなく挙げています。そそくさと前に進むと、地元の女子高生が完走メダルやタオルをかけてくれます。なぜかたいてい可愛い女子高生です。男性ランナーへのサービスなんでしょうね。その辺に空き地を見つけたら「もう走らなくていい」と嬉しくなり地面に倒れます。寝転がっているとすごく気持ちがいいのですが、5分もすれば気持ちよさも薄れ、ついでにレース中の苦しさも忘れ、「次だ次だ次だ、今度こそちゃんと練習して、まともに走りきってやる!」といきり立ちはじめます。そしてヤケ酒がわりの生ビールを探しにいきます。いつだって不完全燃焼、それがぼくの100キロです。
     いつの日か心の底から突き上げるガッツポーズをたずさえてゴールテープを切れる日が来るんでしょうか。今年こそやれる!と根拠なく信じている自分はバカなんでしょうか。日々、大会要項を見比べては目標レースを決める勇気なく、ランネットを閉じたり開いたり。スタート地点やゴール地点に近い安宿を見つけたり、格安で行ける交通手段を探し出したりしてほくそ笑む。そんなこんなで100キロマラソン・シーズンが静かに幕を開けるのでした。
     
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  • バカロードその40 なにもない美しい世界
    文=坂東良晃(タウトク編集人、1967年生まれ。1987年アフリカ大陸を徒歩で横断、2011年北米大陸をマラソンで横断。世界6大陸横断をめざしてバカ道をゆく)

     最近、春からの採用を約束した学生からこんな質問が出るようになった。「貴社は内定式をしないんですか?」。
     はぁ?内定式とはいったい何ぞや。
     大学を出てないぼくは当然就職活動もしたことないので、この辺の常識が著しく欠落している。学生がそんなに心待ちにしている行事とは何だろうかとさっそく調査にあたった。調査は約15分で終わった。それなりに名前の通った会社では、10月に内定を出した学生を集めて「内定式」ってのをやっているらしい。
     典型的な1日のスケジュールとしては、まず人事部長や社長さんから訓辞が行われ、お返しに学生代表が宣誓文を読み上げる。1人ずつ名前を呼ばれ、代表者印の押された内定書をうやうやしく授与されたりする。そして、ちょっとフランクな雰囲気を演出しながら諸先輩方より就職の心構えなんかが説明され、いよいよ夕方からはメインイベントである懇親会、つまり若手社員と内定者が居酒屋やパーティルームに移動し、会社の金をふんだんに使って飲みニケーションをとるらしい。
     なるほど。しかし、わざわざ遠方から学生さんを呼び寄せて行うイベントとしては双方に大した価値がなさそうなプログラムだ。世の中、工場閉鎖による大量解雇やら派遣切りやら工場海外移転による空洞化やらと雇用情勢はいちだんと厳しさを増すなかで、こんなのん気な催しが行われているわけか、と感心する。
     そんな暇があれば、経営者や管理職は通常業務をこなした方がよさそうだし、学生さんもこの程度の主旨で中途半端な時期に呼びつけられ、前後2日間ほどを拘束されるのはたまったもんじゃないかと思える。それなのに「内定式してほしい」なんてリクエストする学生が少なからずいるのが不思議である。内定式を欲する学生に「どうしてそんなんやりたいの?」と聞くと、集まった学生でmixiやらTwitterやらFacebookのアカウントを交換して、コミュをつくって情報交換などしたいんだとか。
     なるほど、つまりヒマなのか。
     ソーシャルネットワークを使った就職活動「ソー活」花盛りだけど、もー余計に段取りをややこしくしている。採用担当者と学生がネット上でごじゃごじゃ話してる間がありゃ、さっさと採用の結論出してやりゃいいのに、とハタ目には思う。
     ぼくの会社では入社式もしないし、新人研修もしない。そんなの1日やってる時間があれば、さっさと街に出て、記事ネタ集めてきてほしいのである。だが新入社員は「どーしてウチは入社式しないんですか」とか「私の友人が入社した会社は新人研修を半年もしてくれるんですよ」なんて不穏な圧力をかけてくる。ふむ、社内でチンタラ研修ごっこやってるより外に飛び出したい、なんてのは20世紀の労働者思想なのか。あるいは、現代の学生も四季折々のセレモニーを愛する民族的嗜好を受け継いでいるのかな。
     とかく日本人は面倒な手続きを増やし、拘束されることを好む傾向がありますね。たとえば古くから企業や役所にある「承認印」という認可証明の方法。現場や会議で決まったことを書類にまとめ、上司に決済を求める。上司がハンコを押し、そのまた上司に上申する。そのまた上司もハンコを押したり、たまには否認する。大きい会社だと物事を決定するまでにハンコが6つくらいズラリと並ぶ。今は、イントラネット上で承認を行う企業が増えてるんだろうから、ハンコの需要は減ってる。だけどハンコ画像が朱肉に取って変わっても、上司による承認・否認の仕組みが同じなら、かかる手間としては同じことである。
     何かを決める際に、根回しだの、話を通していく順番だの、そういうのに時間と脳みそを使うのはムダだ。物事を速く決定し、実行に移すためには、上席によるOKがないと何かを始められないって決まり事・・・つまり承認印をなくせばいいのである。
     たとえば全社メールなり共有ネットワーク上で現場から企画なり改善点が提案される。1〜2日内に誰からも反論・否定がなければゴーとする。反論・否定は上司でも同僚でも部下でもできる。たったこれだけのことでアイデア出しから決定までの時間が超スピーディになる。建設的ではない反論は自動的にアウトとすればいい。
     意思決定の段取りがシンプルになれば、だらだら長い会議も不要になる。物事を決定する際に、いちいち上司や利害関係者を上座にお呼び立てし、グラフをふんだんに取り入れたページ数のやたら多いプレゼンテーション資料をパワポで用意し、朗々たるご説明をさしあげ、見当外れのご意見を拝聴する手続きが必要ない。
     一般に、会社に就職すると最初に「報告・連絡・相談を徹底しなさい」と教えられるが、ぼくは「大事件以外の報告・連絡・相談はしないでくださいな」とお願いする。部下が無意味な報告にのこのこやってきたら無視をする。恋愛相談ならおもしろいので耳をそばだてる。
     「報連相」にかかる時間と手続きが多すぎるのだ。バカな上司に報告し、相談している時間をショートカットして、自分でグイグイ仕事を進めてけばいい。職場を二周して問題点に気づかないマネージャーなんて役立たずだし、そんな人に限って「報連相」を求める。上の人間はゴチャゴチャ言わず結果責任だけ取ればいいのだ。
     目的集団には「役職」なんてのも必要ない。対外的な「責任の所在としての役職」は必要なんだろうが、少なくとも社内ヒエラルキーを形成する目的としてはいらない。管理しないと人間は秩序だてて行動できない、という観念を捨てればいい。二十代の若手も四十代のベテランも、誰にもコントロールされることなく、自由自在に動いてる方が機能美に溢れている。対人関係上の葛藤処理に費やす膨大な時間と労力をとっぱらい、ただモノを作ることだけに集中している集団だ。
     もっと根本的な疑問だってある。本来、何か社会に必要なプロジェクトを思いつき実行に移したいときに、最も機能的な集団構成は営利法人=企業じゃない気もしている。会社やってる立場で言うのもなんだけどね。経理部門は外注して、あとは仕事やりたい人だけが集まって、てんで勝手にプロジェクトを進めている人的集団にならないかな。昔の任侠のオジサンたちとか共産主義者の地下組織とかアルカイダあたりってそんな感じか。いや、これらは精神的支柱としてカリスマ的人物や強烈な教義が必要ですね。中核いらずの目的集団って何だろ。全員ヘタクソなアマチュア・ロックバンドみたいなもんか。あ、そんでいい気がしてきた。
  • バカロードその41 脱力100キロ
    文=坂東良晃(タウトク編集人、1967年生まれ。1987年アフリカ大陸を徒歩で横断、2011年北米大陸をマラソンで横断。世界6大陸横断をめざしてバカ道をゆく)

     大雨・強風注意報発令中。
     島根半島に台風2号が迫っている。
     重量のある雨がパチパチとアスファルトを叩き、ちぎれた黒い雲が真横に吹き飛ばされていく。スタートラインに並んでいるだけで濡れネズミだ。もはや雨よけの手段を考える必要もない。ポリ袋をかぶろうと雨合羽を羽織ろうと、5分もしないうちに滝行の修行僧になるんだから。
     「注意報が警報に変わればその時点で中止とします」と、マイクを持ったずぶ濡れの主催者が説明を繰り返す。

     毎年5月下旬に島根県北部で開催される「えびす・だいこく100キロマラソン」は今年で18回を数える歴史ある大会。
     スタートは日本海沿岸の小さな港町・美保関。青石畳の小路が民家の間をぬう乙女心キュン風情の漁師町だ。コースの前半は入り組んだ海岸線が続く島根半島を大横断する。碧い海原の彼方に隠岐の島を見やり、断崖のヘリを戦々恐々進んだかと思えば、低周波音を唸らせ稼動する島根原発の3つの巨大建屋を直下に見下ろすスペクタクルも用意されている。150メートル級の3つの峠が最大の難所とされているが、それ以外の道が平坦なわけではない。全コースにわたって数十メートルのアップダウンを繰り返し、累積標高差は1750メートルに達する。
     過酷なコースとは裏腹に、この大会が大学スポーツサークルの合宿地のような明朗闊達なムードに包まれているのは「チームリレー」という競技があるためだ。5人以内のメンバーで駅伝のようにタスキをつなぎ100キロを走る。リレーメンバーは何度も交代でき、1人が何キロ担当してもよい。先頭チームなんて、短距離で次々と入れ替わりキロ4分の猛スピードで駆けていく。このリレー参加者たちが大会の雰囲気を華やかにしているのだ。なんせふつうのウルトラの大会ときたら、常軌を逸した走り込みをこなし、鶏ガラ級に肉体を絞り込み、弱音など吐いてたまるかコノヤロー的な紳士淑女が全国から大集結している。それに比べてオシャレなチームシャツを揃えたりなんかした女子大生たちが、黄色い嬌声をあげつつ100キロと戦っている姿なんて、レモンとライムとシロップたっぷりの清涼剤。最近の女子大生なんぞ街で見かけてもアイメイクの濃ゆさに頭痛を催すだけだが、ストイックきわまりないウルトラの舞台なら瑞瑞しさ、光沢感が違う!

     それにしても台風の中、走るのってこんな痛快なのか。
     ぼくだけじゃない。追い越し、追い越されてゆくランナーの多くが、楽しくて仕方がないって表情だ。
     子供の頃、台風が来たら外に出たくてたまらなかった記憶って誰しもあると思う。その場跳びすれば1メートルくらい着地点が違ってしまう抗しがたき自然の圧力。稲妻が空を裂き、遠くの山に雷がドンと落ちる。ドブは溢れかえり、田んぼと道路の境界線がなくなって、茶色い沼地ができる。子供はそんな大自然のパワーを全身で受け止めたい。いや、実は大人になってもたいして変化ないのかも知れない。
     嵐を衝いて外ではしゃぎまわっておれば、ご近所衆に頭イカれてるのかと疑われる。だがマラソンレース中なら暴れ放題だ。峠のてっぺんからイャッホーと叫んで坂を猛ダッシュで下れば「気合い入ってるね!」と誉められる。まったくただアホなだけなのにね。ウルトラマラソンって何て都合のいいスポーツなんだろう! 笑いを抑えられない。完全に笑いながら走っている。世の中いろんな最新レジャーが開発されてるけど、こんな面白いことってあんのかな。

     この100キロには、ひとつのテーマをもって挑んだ。
     「脱力」である。
     身体のどの部分にもいっさい力を入れない。心拍数を上げず、平常の呼吸リズムを維持する。100キロを走り終えても筋肉や心肺にダメージを残さない。そのままのペースで200キロ、300キロと走り続けても絶対に潰れない、との確信を持てるスピードはどこかを探るのだ。
     力を入れず走るってのは、具体的には着地時と蹴り出し時に筋肉を固めないってことだ。大腿部や腹筋などの筋力を動員して身体を前に持っていくのではなく、骨格のバランスによって身体を平行移動させる。重心を心もち前傾に・・・垂直立ちの位置からわずか数度前傾させ、引力に導かれるままに走る。フルマラソンレースのように足底を地面にパンパン叩きつけない。地面からの反発力で前方に飛んでいくのではなく、軽く、そよ風のように路面を撫で、ふわふわ移動する。
     今月スタートする北米横断レースでは「絶対に潰れてはならない」のである。疲労困憊してはならない。その日ゴールできても、翌日起き上がれないのではダメなのだ。毎日80キロ踏破しても、翌朝にはピンピン跳ね起きるくらいの余裕度をキープしなくてはなけない。
     ひとことで「潰れる」と言っても、多様な症状を指しており、原因も結果も異なる。
     心肺能力の限界を越え、乳酸処理が間に合わなくなった「もうぜんぜん動けん」か。
     脱水により体内の鉄分が失われた貧血めまいフラフラ状態か。
     ミネラルが奪われ全身の筋肉が攣りまくってるヘンなオジサンか。
     小腸からのカロリー吸収が運動消費カロリーに追いつかない「ガス欠」か。
     数万歩の歩行の繰り返しによって筋肉損傷が限界を超した針の山ランニングか。
     胃酸の過剰分泌によって嘔吐が止まらず、消化不良で栄養吸収が追いつかない哀しみのゲロゲロか。
     いずれにせよ、どの状況も遠慮したい。1日だけのレースなら根性で乗り切れる。だが連続70日間のステージレースではアウトだ。
     潰れる原因の大もとをたどれば、心拍数の上げすぎなんだと思っている。たとえば1000メートルのインターバルで心拍数をマックスに追い込めば、後半500メートルはとてつもなく長く感じる。脚は鉛を仕込んだように重くなるし、ゴールすれば胃液も出ない空ゲロをオェオェ吐く。だが心拍数さえあげなきゃ100キロといえど、長い距離と感じずにすむ。
     今日はそれを実証できた。潰れることなく、休むことなくキロ6分30秒で淡々と進む。
     出雲大社の門前町である神門通りを駆け下りゴールする。タイムは10時間52分。土砂降りの雨を降らす天に顔を向け、「ショーシャンクの空に」のアンディ・デュフレーン気取り。
     ゴールの後には、江戸時代から営業される歴史ある純和風旅館「日の出館」で休憩できる。超ぬるま湯の岩風呂に身体を浮かせ、湯上がりには大広間でゴロゴロ惰眠を貪れる。まったく、ランナーの幸せポイントを的確についてくるではないか。
     この大会は、自己責任原則をうたってはいるが、実際はスタッフ数も多く、エイドは豊富。曲がり角、分かれ道の交通誘導は丁寧すぎるほどに手厚い。自治体や警察の協力体制も取れている。国道の電光掲示板にはマラソンの告知がされ、コースと並行して走るローカル路線・一畑電車にはゼッケンを見せるとフリー乗車までできる。いつでもリタイアできるって安心感?ありだ。
     参加料は6000円。「大会参加賞は全国一安く?」とパンフにも謳われているが、1万5000円前後が相場のウルトラマラソンにあって、とても潔ぎよく感じる。
     完走証や完走メダルはない。前夜祭・後夜祭などの華美な装飾イベントも催されない。流行りの計測チップもないけど、ちゃんとゴール時間はスタッフが計ってくれる。何の問題もない。本来、ウルトラマラソンの大会はこうあるべきなんだ、という姿勢をきっちり見せてくれる素敵このうえない大会だった。

     さて準備は整った。
     6月19日、午前5時30分。ロサンゼルスの南50キロ、サーファーの聖地ともいえるハンティントン・ビーチの砂浜で、太平洋の海水に片足をひたしたのち、北米大陸横断の旅に出る。5135キロ彼方のニューヨークにたどりつくまで絶対に潰れることはない。
     「道はどんなに険しくとも、笑いながら歩こうぜ」。
     わが人生、ここぞというときは絶対に猪木語録の登場なのだ。
  • 外に飛び出したくなる年末年始のイベントは さらら12月15日号でチェック tokushima-sarara1215.jpgお得な情報が大好きな皆さん! 年の瀬から年明けにかけて行われるイベント情報が盛りだくさんのさららを今すぐ見よう。抽選・福引はもちろん、無料で美味しいものが食べられる振る舞いに餅投げといった内容がてんこもり。寒い日こそ外に出かければ、いいことあるかも? また、表紙で連載中のさらランキングでは、忙しい今だからこそ実践したい家事アイデアが大集合。掃除をささっと済ませる方法や時間をかけずに美味しいごはんが作れる方法など、今日から試してほしいものが満載です。

  • CU1月号 日本と世界のご当地グルメをカフェまね tokushima-cu1201
    ■日本と世界のご当地グルメをカフェまね!
    日本全国のB級グルメや世界の隠れ美食をカフェ風にアレンジ。かわいくて簡単なカフェ風ごはんをササッと作れば、きっと誉められること間違いなし! 夜カフェに欠かせない、特別版のBARまね帳も必見。

    ■女のカラダ、お悩み解決法
    じっくりと自分のからだを見つめ直してみると、気になるところがいっぱい! 渦を巻く毛やたるんだお尻、そしてデリケートなあそこのニオイまで…。密かに気になっていたからだの疑問にお答えします。
  • 徳島人1月号、発売中!! 「徳島の職人魂! 町工場のすごい技術」 tokushimajin1■徳島の職人魂! 町工場のすごい技術
    完成品しか目にすることのない物の裏側には
    物作りに携わる人たちの熱き情熱が秘められていた! 徳島でモノを生み出し、製品化していくアイデアと技に迫る。

    ■徳島の名前の不確かな場所に名前をつけよう!
    通称で呼んでいたあの道、皆が好きずきに呼んでいたこの道、説明したいけど説明しにくかった道に決着をつける!
    吉野川大橋、吉野川橋、阿南バイパス、鳴門の農道、国道11号から共栄橋を通って北島へ行く道、徳島市川内町に新しく開通した流通団地への道・・・。はてさて、その呼び名はいかに!?
  • 結婚しちゃお!秋号 実売部数報告11秋号_結婚しちゃお!部数報告書.pdf

    結婚しちゃお!秋号 実売部数報告です。
    結婚しちゃお!秋号の売部数は、852部でした。
    詳しくは、上部のファイルをクリックしてください。

    メディコムでは、自社制作している
    「月刊タウン情報トクシマ」「月刊タウン情報CU」「徳島人」「結婚しちゃお!」「徳島の家」の実売部数を発表しております。
  • 月刊タウン情報トクシマ11月号 実売部数報告1111_タウトク部数報告.pdf

    月刊タウン情報トクシマ11月号 実売部数を報告します。タウトク11月号の売部数は、
    6,225部でした。詳しくは、上部のファイルをクリックしてください。
    メディコムは、「月刊タウン情報トクシマ」「月刊タウン情報CU」「徳島人」「結婚しちゃお!」「徳島の家」の実売部数を創刊号から発表しつづけています。

    雑誌の実売部数を発行号ごとに速報として発表している出版社は、当社以外では日本には一社もありません。実売部数は、シェア占有率を算出し、媒体影響力をはかるうえで最も重要な数値です。他の一般的な業界と同様に、出版をなりわいとする業界でも正確な情報開示がなされるような動きがあるべきだと考えています。わたしたちの取り組みは小さな一歩ですが、いつかスタンダードなものになると信じています。
  • 月刊タウン情報CU11月号 実売部数報告1111_CU部数報告.pdf

    月刊タウン情報CU11月号の実売部数を報告します。CU11月号の売部数は、
    5,606部でした。詳しくは、上部のファイルをクリックしてください。

    長らく雑誌の実売部数はシークレットとされてきました。雑誌は、その収益の多くを広告料収入に頼っているためです。実際の販売部数と大きくかけ離れ、数倍にも水増しされた「発行部数」を元に、広告料収入を得てきた経緯があります。
    メディコムでは、その悪習を否定し、「月刊タウン情報トクシマ」「月刊タウン情報CU」「徳島人」「結婚しちゃお!」「徳島の家」の実売部数を創刊号以来、発表しつづけています。
  • 徳島人11月号 実売部数報告1111_徳島人部数報告書.pdf

    徳島人11月号 実売部数報告です。
    徳島人11月号の売部数は、3,770部でした。
    詳しくは、上部のファイルをクリックしてください。

    メディコムでは、自社制作している
    「月刊タウン情報トクシマ」「月刊タウン情報CU」「徳島人」「結婚しちゃお!」「徳島の家」の実売部数を発表しております。
  • この冬欲しいものがいっぱい! さらら12月1日号 salala1201.jpg今年もあと1カ月! これからの本格的な寒さに備え、さらら12月1日号ではこの時季注目の最新&おすすめアイテムをご紹介。巻きスカートや着られる毛布、最新ストーブやインナーなどのほか、今年の鍋のトレンドまで、あったかアイテム情報が目白押し。きっと欲しい商品に出会えるはず。

    また、今回のさらランキングは「冬、体を動かす秘訣ランキング」。寒くて外に出たくないこの季節だからこそ、ちょっとした工夫が運動不足解決のカギに。生活の中に組み込むものが多いから、ぜひ今日からまねしてみて。