バカロードその68 ポジティブシンキングは止めなさい!

公開日 2014年07月08日

文=坂東良晃(タウトク編集人、1967年生まれ。1987年アフリカ大陸を徒歩で横断、2011年北米大陸をマラソンで横断。世界6大陸横断をめざしてバカ道をゆく)

 採用面接の季節は、不思議な気持ちになる。
 みず知らずの学生さんたち。どこの馬の骨がいかなる魂胆でやっているかもわからない会社にやってきては、ここで働きたいと言う。ぼくがどんな怪しい信仰をもち、空中浮遊ができたり、縛られたり猿ぐつわされるのが大好きな人かもしれないのに、働きたいと言ってくれる。
 ありがたいことである。
 アカの他人様が20余年もの間、手塩にかけて育てた大事なお子さんである。なるべく不幸な目にはあわせたくない。だが残念なことにわが社は、毎日17時に終業しアフターファイブを満喫できる職場ではない。東京は神田神保町界隈の雑居ビルの片隅あたりに入居する、所帯ひもじい零細出版社の経営環境と大差ない。鬼ヅラ上司の罵声を浴びながら、いつ果てるとも知らぬ仕事の山に追われ、風呂に入る時間もなく、すえた体臭の臭いが充満する事務所で真っ白な灰となっていく、ジョ〜! 今どきの社員にやさしい会社とは違うのである。
 面接タイムは、そのような劣悪環境について、ぼくから一方的に説明する時間帯に占められる。自己卑下説明会である。
 ところが学生さんたら「そんなに正直に何でも話してくれる会社って今までなかったです!面白いですね!」などと目を輝かせはじめている。
 おい君、ポジティブシンキングは止めなさい! ぼくは冗談で言っているのではないのだよ。あえて自分を貶めて親しみやすい雰囲気を作ろうなんて人心掌握術はないのだよ。夢見がちな君の誤解を解き、現実というものをお知らせするために、全速力でプレゼンしてるんだ。
        □
 夢見るうるつや就職活動生と、お肌カサカサの枯れ果てた中年社会人の会話は、いささかコントのような情景を描くきらいがある。学生さんの期待する解答を述べてあげられないへそ曲がりな自分を憎しむ。地球上で一番たくさんのありがとうを集める会社にしたい、くらいの大見得を一度くらいは若者の前で切ってもみたくはあるが、後の説明がつづかないのでやめておく。
 そして春になると、憂鬱でこっけいな質疑応答の応酬な日々がつづくのである。こんな感じで。

Q 新人研修はどんな内容ですか?
A 研修ありません。仕事は現場で覚えてもらいやす。

Q 休みはちゃんと取れますか?
A 仕事をパッパと終わらせた人は休めます。

Q 社訓ってありますか?
A 社内は貼り紙禁止なので、ないです。

Q 会議は多いですか?
A よほどの事件がない限りしません。

Q どんな福利厚生がありますか。
A カップ麺、お菓子、ジュース、食べ放題&飲み放題。

Q 儲かっていますか。
A あまり・・・。

Q 新人歓迎会はありますか。
A 歓迎してもらえるという前提から間違えています。

Q 社員はどんな人が多いんですか?
A 体育会系もしくはヲタクもしくはギャル。

Q 仕事でいちばん大切なことは何ですか?
A スピード。

Q 仕事のどんな点が楽しいですか?
A ごめん。楽しさは求めてない

Q どんな社会貢献や地域貢献をしていますか?
A ごめん。自分たちが生きていくだけでカツカツ。
 
Q 就職とは何ですか?
A 自分以外の誰かが作った世界に入ると積極的選択。

Q 会社って何ですか?
A カラ箱。

Q 東京の出版社も受けているのですが・・・。
A 東京にしとき。悪いこと言わんから。

Q 将来は文章を書いて生計を立てたいと思っているのですが。
A (ううっ、困った人が来た)

Q カメラで風景や友達の表情を撮るのが好きなんですが。
A (ううっ、また困った人が来た)

Q 私の思いを雑誌を使って発信したいのですが。
A ミュージシャンか詩人になってください。

Q 私が良いと思う徳島の情報を世界中に届けたいのですが。
A あなたのブログでお願いします。

Q コミュ障なんですが大丈夫ですか?
A 初対面から弁舌豊かな人物の方が怪しいです。

Q 徳島なんて田舎で月刊誌を3誌出している理由は何ですか?
A 本当は30誌くらい出したいのに商才ないせいで3誌で止まってる段階。

Q やっぱり好きなことを職業にすべきですか?
A デスメタルが好きでも地獄の使者にならなくていいし、大山倍達が好きでも猛牛と戦わなくても構わないと思われる。

Q インターンシップはできますか?
A 給料払わずに人に命令するのが嫌なのでアルバイトなら受けつけます。

Q 会社の近くにコンビニはありますか?
A 自分で探してください。

Q 大学中退ですが採用試験受けられますか?
A 義務教育のお務めを終えているなら。

Q 取材なんて私にできるんでしょうか?
A 目の前の人に質問30コできたらイケる。

Q 運転に自信がなくて、遠出とかはできそうにないですが、大丈夫ですか?
A 無理。

Q 仕事のストレスはどうやって解消されていますか?
A サウナ→水風呂→サウナ→水風呂→サウナ→rev.

Q 小さい会社ならではのいい面って何ですか?
A テメェ面と向かって失礼だろ。

Q やっぱり深夜にソファで仮眠するような過酷労働ですか。
A 深夜にソファで寝られません。「寝るな仕事やれ」と叩き起こされます。

Q やっぱり地元愛が強い社員さんが多いんですか?
A それほどでも・・・。

Q 愛社精神を求められますか?
A 愛される資格はありません。

Q 年間どれくらいの量の紙を使用していますか。
A 約50万キログラム。500トンです。

Q 再生紙は使っていますか。
A 使いませんよ。

Q 地球環境についてどんな姿勢でいらっしゃいますか?
A それ出版社に聞くぅ〜?

Q 紙を使った出版業という仕事に将来はあるのでしょうか?
A そんな千里眼あったらいいね。

Q 「雑誌が売れなくなった」というニュースをよく見ますがどう思いますか。
A 出版界全体を憂う立場にはないのです。何も感じません。

Q 上下関係は厳しいんですか?
A 反論しなければ怒られるというドSかドMかわからない奇習あり。

Q 飲みニケーションは盛んですか?
A 一人酒専門です。

Q 御社に東京五輪決定の影響はありますか?
A いちおうトレーニングはじめました。

Q 社内サークルはありますか?
A 100キロマラソン部。

Q 内定式ってあるんですか?
A そんなんやってる暇ないのでしません。

Q OB・OG訪問可能ですか。
A 暇をもてあましている人はいません。

Q ブラック企業ですか?
A マルコムX伝記を読みなはれ。

Q 採用試験が1日だけですが、それでちゃんと人物を見分けられる?
A 20年連れ添った夫婦でも「アナタがそんな人とは知らなかった」別れたりするよ。

Q 失礼ながら御社のホームページは貧弱では・・・
A あ、これね。お金かけたくないのよ。

Q 保養施設はありますか?
A 我々は中小企業の「小」の部類に在るんだせ!

Q 今年の社員旅行はどこに行きますか?
A 誰一人として行き先知らずのままバスで護送されるらしい。

Q 仕事のやりがいってありますか。
A 10年やった後でじんわり感じるものです。

Q 編集長に必要な能力は?
A 毒舌と美貌。

Q 4月から入社しなくてもいいんですか?
A いつでもどうぞ。むろん労働開始するまでは給料ナシ。

Q デザイナー志望ですがどんな試験がありますか。
A ちょちょいと手際を見せてください。それで大体わかります。

Q 徳島県出身者ではないのですが、入社後何かと苦労しませんか?
A その気になるならチベットでもコンゴでも働けますよ。何事もあなたしだい。

Q わが国の少子化について危機感は?
A 1億2000万人って戦後に増えすぎただけよ。4〜5000万人が程良い。

Q ソーシャルメディアについてどう思いますか。
A 専制君主国における市民革命には大いなる武器、OECD加盟国レベルでは無限大の浪費。

Q 仕事のやりがいって何ですか。
A 何かな。人によって違いすぎて、まとめるの困難です。

Q 入社前に勉強しておくべきことはありますか。
A 文章を猛スピードで書けるようにしておいてください。400字なら30分目安で。

Q 社風は温かいですか。
A 粉雪が舞っています。

Q どんな人物はNGですか。
A リアルで寡黙、ネットは雄弁。
  会議で寡黙、化粧室は雄弁。
  職場で寡黙、飲み屋は雄弁。

Q ボランティア経験は評価されますか。
A どちらかと言うとマイナス。

Q どうしてマイナスなのですか。ふつうはプラスでは。
A 商売はボランティアと真反対の位置にあるから、かな。

Q アルバイト経験は評価されますか。
A プラスにもマイナスにもなりません。

Q 本当の採用基準はなんですか?
A 陽気さ、かな。

Q ぼくはバカなんですが、採用してもらえますか?
A 陽気なら。

Q 社員間の絆を高めるために、何か取り組みはされていますか。
A 絆は求めていません。

Q 仕事の楽しい点を教えてください。
A 似たような質問多いけど・・・仕事に楽しさ求めてない。

Q 徳島県以外の地域ではビジネス展開しないのですか?
A 方言が通じないと不安で不安で。

Q 地方で出版を続けるのは大変なのでは。
A 競争少ないので大変ではない。

Q 東京に進出する気はないですか。
A 雑誌が山のようにある場所より、ない場所でやりたく思います。

Q 雑誌を作るうえで大事なことはなんですか。
A 仕事と遊びの混同。

 どんな質問に対してもズバッと魅力的な返事ができる大人になりたい。若者の情熱に火をともすファイティング・スピリッツ溢れるお話がしたい。この人物は既成社会の枠組みや地球の未来を変えてしまう大人物なのではないかと思われたい。少年のような無垢な想いを胸に、無謀な事にたった一人で立ち向かっている素敵なおじさまかも、と憧れられたい。イタリア製の生地で仕立てたスーツを嫌みなく着こなし、ワインの知識をサラッと披露し、首相や大統領につながる女性人脈をベッドで持っていたい。さあ、今宵はレンタルマンガ屋さんに寄って「会長島耕作」でも熟読するとすっか!