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2014年7月

  • タウトク8月号特別ふろく「徳島冒険王」 boukenou本日発売のタウトク8月号には、徳島の夏を遊びたおせる特別ふろく付き!

    ★2014阿波おどりガイド
    チケット購入から踊る阿呆になる方法まで、阿波おどりを10倍楽しめる情報満載。
    ★徳島が誇る夏グルメ
    夏の宴会にオススメのお店、食べ歩きたい徳島ラーメン、行列のできる有名店など、ハズさない徳島グルメを紹介。
    ★徳島の注目のレジャー&グルメスポット
    人気の遊びスポット、アウトドアスポーツ、最旬ファッションなど、夏あそび情報をしっかりカバー。
  • ブライダルフェア密着取材。結婚しちゃお!秋号 kekkon■女子カメラが潜入!ブライダルフェア
    模擬挙式や模擬披露宴、ドレス試着、婚礼料理の試食会など人気フェアの全貌を編集部が明らかにします。
    ■婚約&結婚指輪100
    徳島人気ジュエリーショップ選りすぐりのリングをご紹介。
    ■ゲストが喜ぶ披露宴の演出100
    仰天サプライズからおもしろアイデア、涙・涙の感動演出までたっぷりお届け。

  • 徳島の夏を遊びたおそう! ふろく本「徳島冒険王」付。タウトク8月号 1408_tautoku.jpg■夏あそび計画100
    レジャー、味覚狩り、花火まつり、イベント情報、今夏OPENした新店…暑さも味方にして遊びの達人になるべし!

    ■ふろく本「徳島冒険王」
    徳島のラーメン、夏グルメ、2014 阿波おどりガイド、夏アイテム、注目スポット。これさえあれば夏のおでかけ計画はばっちり!
  • デザート系フローズンドリンク作ろっ!さらら7/17号 tplishima-salala717■デザート系フローズンドリンク、作ってみん?
    飲めばおなかも満足?デザートのようなドリンクをお家で
    ■ハッカ油で夏をCOOLに!
    エアコンを使わない主義の母が伝授する避暑術はこれ!
    ■冷凍したペットボトルで熱帯夜もぐっすり
    ■冷凍テクでラクラククッキング
    ■スリッポンが今流行の理由

  • 四国列車の旅。徳島人8月号 1408tokushimajin■四国のローカル鉄道をのんびりと列車の旅
    JR四国の観光列車「伊予灘ものがたり」、7月スタート
    全国からファンを集める予土線のホビートレイン三兄弟
    伊予鉄の「坊ちゃん列車」で城下町めぐり
    ことでん三路線に揺られてローカル町探訪
    高知の路面電車・土電でノスタルジーを味わう
    ■訪問介護とデイサービス
    ■中高年の終活はじめ
    ■夏の個別指導塾ガイド
  • 海辺でゆるり×島カフェ案内。 tokushima-cu1408海辺でゆるり×島カフェ案内。CU8月号
    ■波音をBGMに美味しい食事とソト遊び
    特集 週末、夏ドライブで。海辺でゆるり
    ■淡路島>>>30分でいける別天地
    特集 島カフェ案内
    ■もっと可愛くなる方法伝授[きゅん∞]
    女磨きアラカルト
    ■ラブホDEデート
  • バカロードその66 生きるための不必要について
    文=坂東良晃(タウトク編集人、1967年生まれ。1987年アフリカ大陸を徒歩で横断、2011年北米大陸をマラソンで横断。世界6大陸横断をめざしてバカ道をゆく)

     そこそこの歳になれば多くの人が経験することだけど、癌告知を受けた。腸壁にできた悪性腫瘍は5段階あるステージの2段階め。切り取る範囲はギリ20mmに収まるから、開腹手術はしなくてもいいという。
     内視鏡手術で取ってみて、組織をタテヨコに細かく刻んで、腸壁の外とかリンパ節まで潜り込んでないか浸潤の深さを確かめるとか・・・というレベルなので余命×年なんて大それた話でもないんだが、癌ホルダーになって気づいたことがある。意外にも自分は死への恐怖心がないってこと。歯医者さんに「今日は歯のお掃除をしましょう」と言われただけで動悸が激しくなり、血圧が上がりすぎて意識が遠のくほどビビリ症な割に、今や死を恐れるどころか興味しんしんでワクワクが止まらないから得体が知れない。
     片道分の燃料だけ積んだプロペラ機のコクピットで敬礼し、青空へと旅立つ青年兵の最期ならば、生命の持つ価値も最大限に高まっているだろうが、こちとら平和日本の凡百たる人生の途上にあるオジサン。よどみに浮かぶうたかたのような無情な存在である。死なんてどのみち万人に訪れるし、1人だけ逃げ切れるはずもないから抵抗する気は起こらない。仮に死期というものがあるのなら、予定された期日をただ淡々と受け入れ、日数を逆算してやるべきことをやればよい、との安らいだ気持ちにすらなる。
     ステージ3以降ともなれば大手術も必要だろうし、抗癌剤治療によって嘔吐したり脱毛したり、全身のあちこちに転移して痛かったり苦しかったりと、今置かれた状況とは一変してしまうだろうから、あくまで死神の姿が見え隠れしてない現段階での心情にすぎないんだけど。
     昔から他人より人生が短く終わる心配よりも、長く生きてしまったときの心配ばかりしている。性格的に他人の温情に触れるのが嫌いで、何か施しを受けてもありがとうのひと言も素直に返せないひねくれた性格だから、余計に老後と呼ばれる年齢まで生存していることを恐れる。ヘルパーさんにおっぱいのひと揉みもサービスせいよとセクハラ戯言の速射砲を浴びせまくり、デイサービスセンターで問題ジジイ扱いされる余生しか想像できない。
     長く生きてこんなことやりたい、あんなことも経験したいという欲がない。商売の都合もあって、半年くらい先までの予定は考える習慣はあるけど、そこから先はいつも空白だ。スティーブ・ジョブスの述べるハングリー精神は野犬並みにあり、愚直さは社会適合できないほど備えているのだが、未来への展望と意欲が決定的にない。
     このような人間が、日本人の平均寿命まで80年生きてしまったなら、時間をもてあましすぎる。あと40年近くものあいだ暇をつぶす方法が見あたらない。
                 □
     西洋医学が普及する前、統計の残る明治後期から1925年あたりまで、日本人の平均寿命は42〜44歳であった。ずいぶん若くして天寿が訪れるものだと平成人なら思うだろうが、これとて人類が共助社会を作り上げた後の話であり、縄文人の遺骨を解析すると10代後半〜30歳で死を迎えた事例が多数を占める。
     哺乳類の寿命は体重の1/4乗に比例する、と生物学者の本川達雄は述べている。成体となった動物は、その体重と心拍数に反比例の関係があり、体重が重いほど脈を打つペースはゆっくりしている。そして、哺乳類は成体の大小にかかわらず、心臓がおよそ15億回脈動すると自然寿命に達するとしている。その論で算すると人間の自然寿命は26歳だという。
     互助システムも医療もない時代には、自然界の他の動物と等しく、病に罹れば死に、怪我をすれば死んだ。それが生物としての自然の姿なのだ。あらゆる動物は天寿の時期を与えられるのに、人間だけが特異ケースとして意図的に寿命を長くすることに成功してきた。その結果が平均寿命80年である。
                □
     人間の生命の維持は、たくさんの殺生のうえに成り立つ。厳格なベジタリアンでない限り、動物や魚の肉、卵を日々摂取する。1日3食、そのうち2食で捕食をすれば、単純に1日2個体と換算しても80年間で6万匹の動物の生命の犠牲を強いている。つまり1人の人間を生かすためには6万匹の生命を奪わねばならない。しらす丼やいくら丼を食えば1食につき1000倍増に換算すべきだけどね。
     それは食物連鎖の普遍的な姿であり、地球上のあらゆる動物が行っている営みであって、特別に人間だけが虐殺王だと卑下する必要はない。アリクイは1日に3万匹の蟻を食わないと生きてられないし、シロナガスクジラは1日に400万匹のオキアミを口ひげで濾し取って養分にしながら、あの図体に成長する。
     しかし一個人に戻り、わが生命に他の動物6万余匹分の生命と釣り合いの取れるほどの価値があるのかと自問すれば、とてもなさそうだとの結論に至る。だから積極的には肉を食べない。動物愛護の信念から生じた考えではないから、ダブルクオーターパウンターも食うし、ミミガーもかじるのだが、肉食は週に1回くらいにしておく。生態系になんの影響も及ばさないけどね。
                □
     荷物は軽量、身軽がいい。
     外を出歩くときはクレジットカード1枚ポケットに忍ばせてたら万事こと足りる。電子マネー決済と交通系の機能がついてればよい。日常生活でもジャーニーランの最中でも、こいつと保険証があれば、生命維持に必要な物資とサービスの98%は調達できる。他人と四六時中つながっている必要については、いくら頭をひねっても思いつかないのでスマホも持たない。Nシステムやら顔認識システムとやらで自分がどこにいるのかを赤の他人に把握されるだけでも嫌なのに、さらに携帯基地局から発信追跡されたりWi-Fi使って位置特定されるのは更にウザい。
     わが国の男性は、若い頃はデイパック、おじさんになるとセカンドバックを携えるのが多数派だが、ぼくはふだんカバンに入れて持ち歩くべきモノが一個も思いつかないのでいつも空身の手ぶらである。
    生きていくのに必要な道具って、広告チラシの裏にリスト書きできる程度のものしかない。ホームレスのおじさんがブルーシートでこさえた住居内に揃えてる生活用具一式があれば、不自由はない。
     何かを収集する癖は子どもの頃からなく、過去の思い出をファイルして時おり回想する感傷的な心も持ち合わせない。流行に無頓着でいられたら20年前の服でも平気で着られるし、いつ大地震が来るかと日々案じなければ食料を備蓄する必要もない。他人によく見られることを願わず、未来の安定を担保しようとしなければ、必要なモノはほぼなくなる。
     今はまだ世捨て人ではないので、バイクやスマホ(固定電話として)を所有しているが、生存に必需なアイテムではない。「職業」から離れた段階で手放すだろう。
    死を迎える頃には、段ボール箱1個分に所有物がまとまっていて、気がついた人に燃えるゴミに出してもらっておしまい、くらいが清々しい。
               □
     春にある「さくら道国際ネイチャーラン」事務局から合格通知が届いた。4度目の応募で初の合格だ。名古屋城から金沢市兼六園までの250kmを36時間制限で走るこの大会は、超長距離ランナーあこがれの大会だ。あこがれるのには理由があって、めったに出場権を手にできないのからである。
     国内選手100人と少々の出場枠は常時有力選手で占められていて、前年にリタイアした人の枠数しか「新人」は参加できない。名うての猛者はめったにリタイアしない。1年にわずか10人出るか出ないかの狭い枠に新参者の実力者が殺到し、過去の実績と持ちタイム上位者から埋まっていく。平凡な過去実績しかないランナーは出る幕がないのである。
     毎年ハードルは上がり続け、今や100kmで8時間台以内、なおかつ萩往還250kmや川の道520kmレベルの大会で上位入賞、あるいはスパルタスロンを33時間台以内で完走、などの実績が必要とも噂される。だから、まずぼくには縁のない大会だと九割五分あきらめつつも、しつこく応募だけはしていた。
     去年、同大会は深夜の山越えエリアにドカ雪が降り、くるぶしまで雪で埋まるほどだった。そのためリタイア数が例年になく増えたという。そんな特殊事情でもなければ、ぼくレベルのランナーには席は回ってこなかっただろう。さくら道国際ネイチャーランの出場権は、250kmを主戦場とするランナーにはまさにプラチナチケットである。1度リタイアすれば翌年と翌々年の出場権がなくなる、とも言われている(主催者の公式見解じゃないですが)。
     3年先に250kmも走れる身体をキープできているかは相当怪しい。だから今回に賭けよう。 半年分の視野しかないぼくにはうってつけの獲物が鼻先にぶら下がったのである。ショートスパンで人生を生きよう。
  • バカロードその71 岬の向こうの岬のそのまた向こうの岬へと〜土佐乃国横断遠足242km・前半戦〜
    文=坂東良晃(タウトク編集人、1967年生まれ。1987年アフリカ大陸を徒歩で横断、2011年北米大陸をマラソンで横断。世界6大陸横断をめざしてバカ道をゆく)

    JR高知駅に着くと、日射しがシャワーのように降り注いでいた。目を細めて空を見上げると、光の七色の粒が散乱している。5月だというのに真夏みたいだ。
     駅前の広場に、大会が用意してくれたマイクロバスがエンジンをかけて待っている。参加ランナーは20人強と少ないので、行列ができるわけでもない。乗り込んだ車中は、マラソンバスというより、どこかの宴会場に向かう送迎バス的なくだけた空気である。
     大会前夜に宿泊する「国立室戸青少年自然の家」までは80kmほどの距離。顔見知りの選手もそうでない人も、わきあいあいとした雰囲気でもって、海辺の道を室戸めざして進んでいく。
     海辺の街道沿いには、古いタイプの商店や食堂が軒を連ねている。通りがかったあちらこちらの街角に、大きな魚の模型が飾りつけられている。魚の種類は街によって違う。カツオやらクジラやら鮎やら。漁港や河川によって地域経済を支える特産魚が違うのだろう。
     やがて国道55号線を山側に折れ、くねくねの山道にはいる。どんだけ人里離れた山奥に連れて行かれるのかと不安になる頃、青少年自然の家が木立の合間に現れる。コンクリート造りの巨大な建造物はアルカトラズ刑務所のような迫力で、「囚われの身」との言葉が頭をよぎる。そう、ここから逃げられはしないのだ。アルカトラズ、もちろん見たことないけど。
     荷をほどく間もなく競技説明会がはじまる。DNSを除くと選手は21人。受付を終えるのに10分もかからない。大会を企画した四万十町、大正・十和スポーツクラブの田辺さんから、走行時の注意点とコースの概要が説明される。
     「第1回 土佐乃国横断遠足」は総距離242kmを60時間制限で行われる。出発は、高知県室戸岬の先端にある中岡慎太郎像の前。中岡は、言わずと知れた維新の志士。陸援隊隊長である。スタートの中岡像、82km地点の高知市桂浜の坂本龍馬像を経由して、ゴール地点である足摺岬のジョン万次郎像へと、明治維新の立役者たちの彫像への到達の時を、ランナーたちは今か今かと恋い焦がれる趣向となっている。
     田辺さんの口調から、コース上の警察署や県警本部との丁寧な折衝を重ねたことが伝わる。一般に、100kmを超える長距離の大会は「レース」ではなく、市民が歩け歩け大会をやっているという主旨というかタテマエを貫く。車道を走ってよいわけではなく、選手はイチ歩行者として歩道を利用する。信号や横断歩道をふだん以上に実直に守る。交通ルール厳守の善良なる市民として立ち居振る舞う。
     とはいえ警察の立場からすれば、ゼッケンとヘッドランプ着けて歩道を走っている集団に、知らんぷりもできない。歩行者としての万全の安全対策を求める。当大会では、日没後は両足首に反射材テープを巻き、所在確認のために携帯電話や充電バッテリーの所持が義務づけられている。
     競技説明会につづいて青少年自然の家のオリエンテーションがあり、施設利用ルールがまとめられたビデオ映像が流される。そう、本来ここは青少年たちが自主自立の精神を養う場所。いかに我々が、いやぼくが人生に疲れ切った中高年であろうと、敷き布団を片付ける際は三つ折りに、掛け布団は四ツ折りにしなくてはならないのだ。
     夕食はバイキング形式で、炊き込みごはんやパスタなど炭水化物豊富でありがたや。コーヒーゼリーのデザートまでついて1泊2食つき2000円也とは涙ホロリである。
     広い食事会場は、赤黒く日焼けした季節はずれのお肌な割に、肉体労働者とも思えぬ痩せ身の中高年たち20余名の周りを、数百名の制服姿の小中学生が取り囲むという見たことのない図式が展開されている。現代の初等教育が抱える諸問題はさまざまにメディアで喧伝されるが、ここ高知においては何の問題もなさそうだ。小学生たちはけたたましく賑やか、おかわり止まらぬ大食らいっぷりで、赤黒い顔したオジサンたちをからかって遊んでいる。うむ、日本の未来は明るいですよ龍馬どの。
         □
     大会当日の朝は6時に起床。昨日教えられたとおりに布団を不器用に畳み、床に掃除機をかけるふりをする。100kmあたりまでのカロリー分を補給するためにバイキング朝食を腹一杯むさぼり喰らう。小学生たちは今朝も元気でやかましい。
     そして再びのほほんムードなバスに乗り込み室戸岬へ。スタート時間の30分前には中岡慎太郎像前に到着。選手の点呼とともに、1人ひとり大会指定の持ち物チェックが行われる。しゃちこばった開会セレモニーはなく、慎太郎像の前で記念撮影を行ったら、静かに242kmの旅が幕を開けた。
     ウエーブスタートながら、21人を3班に分け間隔は30秒おきなので、1班と3班の時間差は1分のみ。辺りを覆っていた松林の樹林帯を抜けると、突き抜けるような高い空と群青の太平洋がひらける。左にゆるく湾曲する土佐湾。四国南岸の緑色の陸地が屏風のように連なる。澄んだ空気の奥に、折り重なって海へなだれ込む岬、その向こうにもまた岬。薄い霞みをかぶった最奥の岬は途方もなく遠いが、よもや足摺のはずはないだろう。ゴールは目に見えるどの岬よりも遠く、そんな地の果てまで自分の脚だけで到達できる可能性を秘めているのだととのロマンにうっとりする。
     自己陶酔中のぼくを、コンクリートの防波堤を歩くよく肥えたトラ猫が何だコイツはと睨みをきかせている。丸石がごろごろ転がる海岸を、海藻採りのオジイチャンやオバアチャンが、白波叩きつける荒れ気味の海に向かって突撃してゆく。ランナーたちは、これからはじまる筋書きなきドラマに浮き立つ心を抑え、朗らかに会話を交わしている。
     5kmも進めば単独走になる。この2カ月で100km超の大会は4本目。脚は重くて引きずり気味だし、足の裏は麻痺していて着地しにくい。はっきり言ってどうしようもない状況なのだが、「どうしようもなくても、どうにかする」ことも人生大事なんだよを走りで証明するのである、との即席テーマを思いつく。はい、あくまで思いつきです。
     大会の公式エイドは27km、60km、82km、153kmの4カ所と限られているが、大会スタッフによる巡回車や、知人ランナーを応援する個人の方たちが、ひんぱんに冷たい飲み物を提供してくれる。街道沿いには自動販売機もたくさんある。重いウォーターボトルを持たずにすむのは楽だ。
     と、水分の補給は十分なれど、50kmも走れば毎度のごとくゲロ吐きがはじまる。もはや年中行事すぎて悲しみもなく、呆れも通り越して、心微動だにせず。義務的に草むらに吐瀉物を放出しては、淡々と走る。
     走っても走っても強さを増すことなく、より弱くなっていく。長距離ランナーとして最も重要な何かを欠いていることに薄々気づきつつ、競技者として高みを目指すでもなく、ファンランナーとして走りを楽しむ余裕もなく、吐き気こみあげる青白い顔で、壊れた機械仕掛けの人形のようにギクシャク走る。
     浦戸湾に架かる浦戸大橋にさしかかる頃に日は暮れヘッドランプを装着。海面高50mの長大橋への登り坂でやけに冷たい汗が背筋をつたい、全身の鳥肌がゾクゾク収まらない。後で知ったのだが、ここは高知市民なら誰もが知る最強心霊スポットだとか。前もって知ってなくて良かった〜。
     スタートから82km、坂本龍馬像のたもとの桂浜エイドでは、心霊の影響もあったかなかったか、かすれ声しか出ないほど消耗しきっていた。
     椅子に座ると腰砕けになり身体が勝手に右に傾いていく。仕方なくウレタンマットに寝ころぶ。仰ぎ見る夜空と森の木々の梢が目玉とともにぐるぐる回る。近くに水族館があるのかオットセイやらアシカの鳴き声がオウッオウッと森にこだましている。おう、ここは現実世界か黄泉の国か。
     大の字に潰れたぼくの脇に、エイドスタッフの方がクーラボックスで即席のテーブルをつくってくれ、カツオのタタキやそうめん汁などの料理を並べてくれる。ありがたく頂こうとするのだが、唾液が枯れていて、いくら噛んでもカツオのタタキが喉に落ちてかない。お茶で流し込む。そんな食べ方はもったいなく、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。スタッフの親切に心から「美味しいです」と返したいのに、そうならない。
     20分ほどひっくり返っていたが、奇跡の復活劇は起こる予兆もなく、のろのろとエイドを後にする。歩いてでも前に進むしかないよね。寝ていてもゴールには1ミリも近づかない。
            □
     高知市に隣接する土佐市街の入口がちょうど100kmにあたる。はや深夜12時、ここまで15時間もかかっている。市街地を抜けると渓流音のする森林帯にさしかかり、細かな登り下りが繰り返される。この大会、高低図をながめると全般にフラットな様子だが、実際は100kmからゴールの242kmまで、コースの9割方が坂道である。いちばん標高のある七子峠で289mだから、大したことないよと油断していたらどっこいである。
     夜中じゅう、大会車両がコースを行き来しては、選手の健康チェックに余念がない。100km超級の大会といえば自己責任原則が当たり前。大会スタッフがここまで選手の面倒を見てくれるなんてね、慣れてなくて何となく気恥ずかしい。
     南国高知の夜は寒さに凍えるほどではないが、道ばたで無防備に眠りに落ちられるほどには暖かくない。徹夜で歩きつづけ、夜明け前に、須崎市街の出口にある公衆トイレの便座に腰掛けたまま5分ほど眠る。さて出発という段になって、太腿やふくらはぎの裏がびっしょり濡れているのに気がづく。何だこりゃ? 腰にぶら下げていた帽子やウエストバックもズブ濡れだ。眠りこけていた時に、便器の水に荷物がどっぷり浸かっているのに気づかなかったのだ。全荷物が水びたし、ズボンも、シューズもトイレのたまり水にまみれ、哀れな気分にひたる。
     どんな眠くても朝日を浴びれば意識も覚醒するものだ。夜明けには少しは走れだせればいいなと淡い期待を抱いていたが、足の裏の痛みが尋常ではなく、歩きに終始する。踏みしめる地面は針の山のごとし。靴下を脱げば灼熱の土踏まずはパンパンに腫れている。走るどころか、続けて歩けるのは3kmが限界。30分おきに靴下を脱ぎ、自販機で買った冷たいドリンクを押し当て、「痛いのは気のせい」とぶつぶつ唱える。
     難所の七子峠を越えると、山あいに開けた高台の水田地帯にさしかかる。冷涼な山水がしぶきをあげて水路を流れる。景色の奥へとゆるやかな勾配で階段状に連なる水田。満々と湛えた水に、空の青が映り込む。午前の太陽が水田にキラキラ反射し、そよ風がさざ波をつくる。澄んだ水鏡のうえで農夫たちが作業をしている。そんな田園風景のなかの一本道を、今大会唯一のドロップバッグを受け取れる153km地点の大エイド「クラインガルテン四万十」めざして走る。走る・・・うぬ、知らぬ間に走れているではないか。風に吹かれて、きらめく光と水の台地を、草原を駆け抜ける少女のように軽快な足どりでウキウキと、オホホホホ。  
    (後半戦につづく)
  • タウトク・CU・徳島人6月号 実売部数報告月刊タウン情報トクシマ6月号、月刊タウン情報CU6月号、
    徳島人6月号の実売部数報告です。

    タウトク6月号の売部数は、5,979部
    1406_タウトク部数報告.pdf

    CU6月号の売部数は、4,702部
    1406_CU部数報告.pdf

    徳島人6月号の売部数は、3,914部
    1406_徳島人部数報告.pdf
    でした。

    詳しくは、リンクファイルをクリックしてください。
    メディコムは、「月刊タウン情報トクシマ」「月刊タウン情報CU」「徳島人」「結婚しちゃお!」「徳島の家」の実売部数を創刊号から発表しつづけています。

    雑誌の実売部数を発行号ごとに速報として発表している出版社は、当社以外では日本には一社もありません。実売部数は、シェア占有率を算出し、媒体影響力をはかるうえで最も重要な数値です。他の一般的な業界と同様に、出版をなりわいとする業界でも正確な情報開示がなされるような動きがあるべきだと考えています。わたしたちの取り組みは小さな一歩ですが、いつかスタンダードなものになると信じています。
  • バカロードその67 必要とするモノは失われていく
    文=坂東良晃(タウトク編集人、1967年生まれ。1987年アフリカ大陸を徒歩で横断、2011年北米大陸をマラソンで横断。世界6大陸横断をめざしてバカ道をゆく)

     マラソンを始めた頃は、スポーツショップに出かけるのが楽しかった。走ること自体もさることながら、ランニングギアを買いそろえていくのが嬉しかった。
     何といってもスポーツショップとは、部活に励む健全青少年たちが集う場所であって、彼らが憧れるマイケル・ジョーダンやデルピエロやサンプラスの等身大パネルが燦然と輝くファンタジーな空間。そしてスポーツ競技とは、選び抜かれし肉体エリートたちがテレビ画面の中で覇を競いあうもの。そんなきらびやかな場と、老成の道を歩むばかりのわが後期高齢人生がクロスするはずなどなかった。
     だが流行事とは恐ろしい。マラソンブームは、出不精なメタボ中年をスポーツショップに誘うほどの夢うつつな幻想を抱かせた。小学生の頃、野球のグローブを買うために初めて足を踏み入れたスポーツ店の神々しさと、専門用品を自分が探しているのだという大人の階段を一段登った感。30余年の時を経て、その陶酔に再び浸れるとは。
    やがてビギナーランナーが誰でも通る道・・・走るたびに自己ベスト更新をし、自分の内に潜む恐るべき可能性に気づき、有頂天な時を迎える。フルマラソンに6時間かかっていた頃には雲上の人しか走れないと思っていたサブフォーを成し遂げ、3時間30分を切り始めてからは、「いよいよ自分はアスリートのはしくれ」「サブスリー達成したらお次は別府だ福岡だ」と夢は右上がりバブル状態、打ち上げ花火は大輪の花をボンボン咲かせた。
     スポーツショップのシューズコーナーといえば、目標タイム別にシューズがディスプレイされている。去年まで履いていた初心者向けでブ厚いソールのが恐ろしく鈍重に感じられ、「フル3時間以内」の棚にあるミズノ・ウェーブエキデン、アシックス・ソーティマジックなどを手に取っては、ああついに箱根の選手と同じ靴を履くまでになったかと鼻の奥をツンとさせる。
     だが、通路を近づいてくるショップスタッフが「そちらは3時間以内の方向けですが、よろしかったでしょうかぁ?」なんて見下してこようもんなら(そんな失礼な店員さんは存在しませんが)、「やいやい、オレ様はこう見えても走歴2年にしてサブスリーまであと○分まで近づいた中年男にしてはまぁまぁの実力者なのだぞ」なんて言い返してやろうかと緊張のバリアをまとう。店員さんは、ただ後ろを通り過ぎるだけで特に相手はしてくれない。
     タイムの向上とともにウエアやギアは軽量化していく。ランニング専門誌に載っている最新アイテムを入手しては、走る用もないのに全身レース仕様に試着しては、姿鏡に向かって横に後ろにとモデル風ポーズを決め、脂肪が消えたシャープなふくらはぎが後方ランナーから見てどんな風に映るかなどとうっとり想像しては、思春期少女の初デートの朝のようなるんるん気分にひたる。
          □
     何もかもが新鮮に感じられた無邪気なビギナー期を経ると、ランニングに対する姿勢や考え方が職人化していく。
     大型スポーツ量販店のポロシャツを着た若いスタッフよりも、明らかに自分の方が知識量でも経験値においても上まわりはじめる。「この前はじめてフルマラソン完走できたんですぅ〜」みたいな初々しい女子店員さんが現れると、「いずれはウルトラマラソンにも挑戦してみてはどうだいグフフ」などとさり気なく自分が長距離やってることを匂わせる。要するに「きゃー!フルでもすごいのに、100キロなんてカッコよくないですかぁ〜」などとヤングな女子に見つめられたい助平イズムを全開にする。
     ウエア&ギアはいよいよ最高機能を追求し、たかだかマラソン1本走るのに1万円を超える高額な機能性タイツをぽいぽいっと買うのも当然といった心境に到る。速く走るためにはどのような投資も惜しまない。だってオレ様はプロだから(プロではない)。一方、ゼェゼェゲェゲェ走ってもタイムは一向に伸びないどん詰まり地帯にさしかかっており、実力のなさを中高年マネーの力でこじ開けようとする卑しさは隠しきれない。
     当時ぼくは、アパレルメーカーWの膝上丈の機能性タイツ(筋力サポートしてくれるやつね)を愛用していたのだが、ある日ショップ内でどれだけ探しても見あたらない。足首まであるロングタイツは何百本と展示されていて、各社がトレンドはそこにあり!と判断したのは明白だが、膝上丈はどこに消えてしまったんだ?
     店員さんを呼びつけ早速メーカーに確認をとらせると、結果は「今年からロング丈だけになったみたいですね」。おいおーい!過去に7枚も購入したこのワシ、つまり約10万円もの大金を膝上丈タイツに投じたロイヤルなお客様であるこのワシに1本の連絡もなしに廃盤かよ。土下座せんかい、責任者出さんかい、と店頭でクレームの嵐を巻き起こすことはなく、「あ、そうなん。どうもありがとう・・・」と寂しくお店をあとにしたのだった。
     ランニングフォームが悪いのか、敏感肌なのか、ぼくは股ズレが悪化するタチだ。内股の皮膚が7センチ四方ほど消失し、ピンク色の生肉が剥き出しになったときは皮が再生するまで何カ月もかかった。あの地獄のヒリヒリは耐え難い。どうにかして股ズレにならないよう、あらゆるタイプのパンツ、タイツを試し、試すたびに血まみれになりつつも、ついにたどり着いたのがメーカーWの膝上丈タイツだったのだ。
     しかし製造中止ではどうしようもない。わざわざメーカー本社に電話して、倉庫に残っている在庫を全部押さえてください、なんて交渉できる剛胆さもない。ぼくは謙虚なのである。声なき消費者は、さみしくお店を立ち去るしかない。以来、機能性タイツは買わなくなってしまった。
        □
     「東京マラソン」以前の市民マラソン大会といえば、多くの参加者がランパン・ランシャツ、女性ランナーならブルマかショートパンツで走っていた。ロングタイツやランスカの登場で、風景はファッショナブルに明るく一変した。それはとても良いことだ。女性のスタンダードウエアが今でもブルマのままなら、マラソンブームは来てなかったね。
     一方、昔カタギの市民ランナーでランパン・ランシャツ派は受難の時代を迎えている。今やスポーツショップ内にランパンがぶら下がってるコーナーを見つけるのは至難のわざ。ようやく発見しても明らかに売れ残り品でSSサイズとOサイズしかなかったりジャイアント馬場風の真っ赤パンツしかない。
     もはや自分好みのランパンを入手しようと思えば、大学や高校の陸上部みたいに部員全員のを業者さんにまとめ発注でもしない限り、手に入らない。チームウエアを共に発注するラン友もおらず、孤独に走る市民ランナーじゃまず無理だ。
     ランニングソックスの愛用品も消えた。アーチサポートタイプで底に滑り止めがついてる有名メーカーMのを長年使っていたが、やっぱし製造中止になった。流血しないパンツ探しとともに靴下探しの漂流がはじまり、2年間ものしっくり来ない時期を経てやっと佐賀県の工場で作っている「イイダ靴下」という会社のソックスが良いな〜とたどり着いた。だが安心していると、いつまた廃盤の憂き目にあうかわからないので油断ならない。
     さらにシューズは・・・と語り始めるとキリがない。絶版シューズの思い出語りなど何の役にも立たないのでカットカット。斬新なコンセプトのシューズは1〜2シーズンで消滅してしまう。ニューバランス製で一番のお気に入りだったジャーニーランナー向けシューズには二度と出会えない。競技人口少なすぎるのね。
     幾度ものメーカーの裏切り(ぼくからの一方的な思いに対する裏切り)と精神的ダメージを経て達した結論は、「ロングセラー製品しか買わない」である。
     100キロまでの大会はアシックスターサー、100キロ超えたらミズノウェーブエアロ。王道すぎてあれこれ悩む余地がない。両方とも無駄な機能がなく、目的に徹している。バージョンアップの度に走りやすく変わる。みんなが履いてるから話題にも加わりやすい。ターサーなんて30年も改訂を重ねている長寿靴だから、ぼくが生きている間に無くなることはないだろう。ひと安心である。
          □
     さて、凡人ランナーの行く末は停滞期から下降期へと向かう。どんなに頑張っても過去に出した記録に追いつきそうにない、よく昔はこんなペースで走れたものだ、あの頃の自分って頑張り屋さんだったんだな・・・と自己ベストタイムが刻まれた完走賞を肴に、呑めない酒に酔いどれる。
     今や、身につけているものもすっかり変わり果てた。
     ウエアを選ぶ基準も様変わりした。かつては、
    ・1グラムでも軽量なもの
    ・熱を放散しやすく、汗切れのよいもの
    ・ストライド、腕ふりを阻害しないカットの深いもの
    ・戦闘的な気分にさせる色づかい
     などであった。
     今はどうだろう。
    ・ゴール会場から自宅までの移動中に異臭を放たないもの
    ・大会参加賞でもらったもの
    ・走ってる途中で捨てても心残りないもの
     である。アームウォーマーや手袋は、百均ショップやドラッグストアのワゴンで売ってる婦人用のを使用。1着100円程度だが、保温性はスポーツ用の2000円のより優れている。ただし汗を吸うとぐっしょり重くなるが、さすればエイドのゴミ箱に捨てる。サイケな配色は気恥ずかしいが、他人が何着て走ってようと気にする人などいない。
     大会記念品のTシャツ、ソックス、帽子はフル活用する。粋がってオシャレウエアで走っていた頃に押し入れにため込んだのが100着はある。一生かけても着つぶせない量だ。大会記念品でショートパンツをくれたことは一度もない(下さい!)ので、パンツだけは自前用意する。内側の縫い目を紙ヤスリで研磨したり、裏表を逆にはいて縫い目の突起物ゼロにすれば、股間に事故は起こらないと経験も積んだので、タンスの奥から古いパンツを引っ張り出しては穴が空くまではいている。
     かつて愛用した相棒ギアのほとんどはスポーツショップから姿を消してしまった。スポーツ用品だけじゃないよね。気がつくと、クルマもバイクも音楽も雑誌も自分好みのモノは過去のものだ。昔を懐古する情緒性もないから、欲しいモノは何もないという霞食って生きる状態。世の中は起きて稼いで寝て食って後は死ぬを待つばかりなり。一休宗純の境地は近いか?
     
  • バカロードその68 ポジティブシンキングは止めなさい!
    文=坂東良晃(タウトク編集人、1967年生まれ。1987年アフリカ大陸を徒歩で横断、2011年北米大陸をマラソンで横断。世界6大陸横断をめざしてバカ道をゆく)

     採用面接の季節は、不思議な気持ちになる。
     みず知らずの学生さんたち。どこの馬の骨がいかなる魂胆でやっているかもわからない会社にやってきては、ここで働きたいと言う。ぼくがどんな怪しい信仰をもち、空中浮遊ができたり、縛られたり猿ぐつわされるのが大好きな人かもしれないのに、働きたいと言ってくれる。
     ありがたいことである。
     アカの他人様が20余年もの間、手塩にかけて育てた大事なお子さんである。なるべく不幸な目にはあわせたくない。だが残念なことにわが社は、毎日17時に終業しアフターファイブを満喫できる職場ではない。東京は神田神保町界隈の雑居ビルの片隅あたりに入居する、所帯ひもじい零細出版社の経営環境と大差ない。鬼ヅラ上司の罵声を浴びながら、いつ果てるとも知らぬ仕事の山に追われ、風呂に入る時間もなく、すえた体臭の臭いが充満する事務所で真っ白な灰となっていく、ジョ〜! 今どきの社員にやさしい会社とは違うのである。
     面接タイムは、そのような劣悪環境について、ぼくから一方的に説明する時間帯に占められる。自己卑下説明会である。
     ところが学生さんたら「そんなに正直に何でも話してくれる会社って今までなかったです!面白いですね!」などと目を輝かせはじめている。
     おい君、ポジティブシンキングは止めなさい! ぼくは冗談で言っているのではないのだよ。あえて自分を貶めて親しみやすい雰囲気を作ろうなんて人心掌握術はないのだよ。夢見がちな君の誤解を解き、現実というものをお知らせするために、全速力でプレゼンしてるんだ。
            □
     夢見るうるつや就職活動生と、お肌カサカサの枯れ果てた中年社会人の会話は、いささかコントのような情景を描くきらいがある。学生さんの期待する解答を述べてあげられないへそ曲がりな自分を憎しむ。地球上で一番たくさんのありがとうを集める会社にしたい、くらいの大見得を一度くらいは若者の前で切ってもみたくはあるが、後の説明がつづかないのでやめておく。
     そして春になると、憂鬱でこっけいな質疑応答の応酬な日々がつづくのである。こんな感じで。

    Q 新人研修はどんな内容ですか?
    A 研修ありません。仕事は現場で覚えてもらいやす。

    Q 休みはちゃんと取れますか?
    A 仕事をパッパと終わらせた人は休めます。

    Q 社訓ってありますか?
    A 社内は貼り紙禁止なので、ないです。

    Q 会議は多いですか?
    A よほどの事件がない限りしません。

    Q どんな福利厚生がありますか。
    A カップ麺、お菓子、ジュース、食べ放題&飲み放題。

    Q 儲かっていますか。
    A あまり・・・。

    Q 新人歓迎会はありますか。
    A 歓迎してもらえるという前提から間違えています。

    Q 社員はどんな人が多いんですか?
    A 体育会系もしくはヲタクもしくはギャル。

    Q 仕事でいちばん大切なことは何ですか?
    A スピード。

    Q 仕事のどんな点が楽しいですか?
    A ごめん。楽しさは求めてない

    Q どんな社会貢献や地域貢献をしていますか?
    A ごめん。自分たちが生きていくだけでカツカツ。
     
    Q 就職とは何ですか?
    A 自分以外の誰かが作った世界に入ると積極的選択。

    Q 会社って何ですか?
    A カラ箱。

    Q 東京の出版社も受けているのですが・・・。
    A 東京にしとき。悪いこと言わんから。

    Q 将来は文章を書いて生計を立てたいと思っているのですが。
    A (ううっ、困った人が来た)

    Q カメラで風景や友達の表情を撮るのが好きなんですが。
    A (ううっ、また困った人が来た)

    Q 私の思いを雑誌を使って発信したいのですが。
    A ミュージシャンか詩人になってください。

    Q 私が良いと思う徳島の情報を世界中に届けたいのですが。
    A あなたのブログでお願いします。

    Q コミュ障なんですが大丈夫ですか?
    A 初対面から弁舌豊かな人物の方が怪しいです。

    Q 徳島なんて田舎で月刊誌を3誌出している理由は何ですか?
    A 本当は30誌くらい出したいのに商才ないせいで3誌で止まってる段階。

    Q やっぱり好きなことを職業にすべきですか?
    A デスメタルが好きでも地獄の使者にならなくていいし、大山倍達が好きでも猛牛と戦わなくても構わないと思われる。

    Q インターンシップはできますか?
    A 給料払わずに人に命令するのが嫌なのでアルバイトなら受けつけます。

    Q 会社の近くにコンビニはありますか?
    A 自分で探してください。

    Q 大学中退ですが採用試験受けられますか?
    A 義務教育のお務めを終えているなら。

    Q 取材なんて私にできるんでしょうか?
    A 目の前の人に質問30コできたらイケる。

    Q 運転に自信がなくて、遠出とかはできそうにないですが、大丈夫ですか?
    A 無理。

    Q 仕事のストレスはどうやって解消されていますか?
    A サウナ→水風呂→サウナ→水風呂→サウナ→rev.

    Q 小さい会社ならではのいい面って何ですか?
    A テメェ面と向かって失礼だろ。

    Q やっぱり深夜にソファで仮眠するような過酷労働ですか。
    A 深夜にソファで寝られません。「寝るな仕事やれ」と叩き起こされます。

    Q やっぱり地元愛が強い社員さんが多いんですか?
    A それほどでも・・・。

    Q 愛社精神を求められますか?
    A 愛される資格はありません。

    Q 年間どれくらいの量の紙を使用していますか。
    A 約50万キログラム。500トンです。

    Q 再生紙は使っていますか。
    A 使いませんよ。

    Q 地球環境についてどんな姿勢でいらっしゃいますか?
    A それ出版社に聞くぅ〜?

    Q 紙を使った出版業という仕事に将来はあるのでしょうか?
    A そんな千里眼あったらいいね。

    Q 「雑誌が売れなくなった」というニュースをよく見ますがどう思いますか。
    A 出版界全体を憂う立場にはないのです。何も感じません。

    Q 上下関係は厳しいんですか?
    A 反論しなければ怒られるというドSかドMかわからない奇習あり。

    Q 飲みニケーションは盛んですか?
    A 一人酒専門です。

    Q 御社に東京五輪決定の影響はありますか?
    A いちおうトレーニングはじめました。

    Q 社内サークルはありますか?
    A 100キロマラソン部。

    Q 内定式ってあるんですか?
    A そんなんやってる暇ないのでしません。

    Q OB・OG訪問可能ですか。
    A 暇をもてあましている人はいません。

    Q ブラック企業ですか?
    A マルコムX伝記を読みなはれ。

    Q 採用試験が1日だけですが、それでちゃんと人物を見分けられる?
    A 20年連れ添った夫婦でも「アナタがそんな人とは知らなかった」別れたりするよ。

    Q 失礼ながら御社のホームページは貧弱では・・・
    A あ、これね。お金かけたくないのよ。

    Q 保養施設はありますか?
    A 我々は中小企業の「小」の部類に在るんだせ!

    Q 今年の社員旅行はどこに行きますか?
    A 誰一人として行き先知らずのままバスで護送されるらしい。

    Q 仕事のやりがいってありますか。
    A 10年やった後でじんわり感じるものです。

    Q 編集長に必要な能力は?
    A 毒舌と美貌。

    Q 4月から入社しなくてもいいんですか?
    A いつでもどうぞ。むろん労働開始するまでは給料ナシ。

    Q デザイナー志望ですがどんな試験がありますか。
    A ちょちょいと手際を見せてください。それで大体わかります。

    Q 徳島県出身者ではないのですが、入社後何かと苦労しませんか?
    A その気になるならチベットでもコンゴでも働けますよ。何事もあなたしだい。

    Q わが国の少子化について危機感は?
    A 1億2000万人って戦後に増えすぎただけよ。4〜5000万人が程良い。

    Q ソーシャルメディアについてどう思いますか。
    A 専制君主国における市民革命には大いなる武器、OECD加盟国レベルでは無限大の浪費。

    Q 仕事のやりがいって何ですか。
    A 何かな。人によって違いすぎて、まとめるの困難です。

    Q 入社前に勉強しておくべきことはありますか。
    A 文章を猛スピードで書けるようにしておいてください。400字なら30分目安で。

    Q 社風は温かいですか。
    A 粉雪が舞っています。

    Q どんな人物はNGですか。
    A リアルで寡黙、ネットは雄弁。
      会議で寡黙、化粧室は雄弁。
      職場で寡黙、飲み屋は雄弁。

    Q ボランティア経験は評価されますか。
    A どちらかと言うとマイナス。

    Q どうしてマイナスなのですか。ふつうはプラスでは。
    A 商売はボランティアと真反対の位置にあるから、かな。

    Q アルバイト経験は評価されますか。
    A プラスにもマイナスにもなりません。

    Q 本当の採用基準はなんですか?
    A 陽気さ、かな。

    Q ぼくはバカなんですが、採用してもらえますか?
    A 陽気なら。

    Q 社員間の絆を高めるために、何か取り組みはされていますか。
    A 絆は求めていません。

    Q 仕事の楽しい点を教えてください。
    A 似たような質問多いけど・・・仕事に楽しさ求めてない。

    Q 徳島県以外の地域ではビジネス展開しないのですか?
    A 方言が通じないと不安で不安で。

    Q 地方で出版を続けるのは大変なのでは。
    A 競争少ないので大変ではない。

    Q 東京に進出する気はないですか。
    A 雑誌が山のようにある場所より、ない場所でやりたく思います。

    Q 雑誌を作るうえで大事なことはなんですか。
    A 仕事と遊びの混同。

     どんな質問に対してもズバッと魅力的な返事ができる大人になりたい。若者の情熱に火をともすファイティング・スピリッツ溢れるお話がしたい。この人物は既成社会の枠組みや地球の未来を変えてしまう大人物なのではないかと思われたい。少年のような無垢な想いを胸に、無謀な事にたった一人で立ち向かっている素敵なおじさまかも、と憧れられたい。イタリア製の生地で仕立てたスーツを嫌みなく着こなし、ワインの知識をサラッと披露し、首相や大統領につながる女性人脈をベッドで持っていたい。さあ、今宵はレンタルマンガ屋さんに寄って「会長島耕作」でも熟読するとすっか!
  • バカロードその69 右の道と左の道。この道をゆかば、どうにでもなるさ!
    文=坂東良晃(タウトク編集人、1967年生まれ。1987年アフリカ大陸を徒歩で横断、2011年北米大陸をマラソンで横断。世界6大陸横断をめざしてバカ道をゆく)

     さあさ皆さんジャーニーランの季節到来ですよ。春の日ざしは荷物を軽くし、凍える野宿の夜からぼくたちを解き放ってくれます。冬枯れの森を季節の花々が週替わりで彩色しはじめます。
     側道わきの山肌では、誰かが据えつけた建材用パイプ口に雪溶け水が噴き出しています。「あてどなき旅」という言葉が頭から離れません。バックパックに最少限の荷物を詰めこんで、名も知らぬ街や野まで走っていくのです。
     最近は、よほどの山奥に入らない限りコンビニやスーパーがありますから、野宿さえ回避するなら、ほぼ空身で走り旅に出られます。思い立ったらすぐ出発できるよう、バックパックを装備完了状態にしておきたいものです。
     ゆく先定めぬフーテンラン用にぼくが準備している用具はこんなとこです。

    【照明具】
    ハンドランプ(ロードバイクのハンドルバーに取り付けるもの。指にはめて指輪みたいに使うと握力不要で楽ちんなのだ)
    ホタル(背後から迫るクルマ警戒用。大会の参加記念品でもらった派手めのLED点滅の)
    ヘッドランプ(薄暗いのしか持ってないので、夜釣り用のルーメン最強なのに買い換えたい)
    【充電ケーブル】
    ガーミン用、スマホ用
    【薬品】
    鎮痛剤(ロキソニンの大量投下は内科的に危険なので、イヴクイックがほど良い)
    絆創膏(おっぱい用が外れたときの予備として)
    胃腸薬(ガスター10ことH2ブロッカー。市販薬では横綱クラス)
    ワセリン(股間に優しいヴァセリンペトロリュームジェリー100g。持続効果あり)
    【その他】
    ガーミン910XTJ(説明書どおり本当に20時間持つ。重宝してます)
    小さいビニル袋(小銭入れとして、また豪雨時のスマホ防水など用途幅広し)
    安全ピン(1個あれば十分。足のマメをザクザク裂くために)
    現金(最後は金が物を言う。金さえあれば世の中どうにかなる。金がなければ世の中どうにもならない)
    スマホ(特に誰からも連絡ないけどね)
    カード類(健康保険証、電子マネーカード、クレジットカード。カードさえあれば世の中どうにかなる)
    【ふつう持ってそうなのに、持たないもの】
    ハイドレーションパックとか水筒とか(山水か自販機があるってことで)
    雨具(濡れたら濡れたであきらめる)
    着替え(シャツやソックスの替えは、オシャレさを問わなければ山村の古い雑貨店で売ってるので十分)
    地図(適当に走るので)
    コンパス(昼間は太陽の方向、夜は星座の動きで代用する)
    食べ物(最悪お店がずーっと現れなくても、山には果実や木の実がありんす)

     着の身着のままとまではいかないけど、バックパックの総重量は1kg程度に収まります。1kgなら空身とほとんど変わらない。
     荷物にも、行き先にも束縛されない。職場や親戚や檀家やPTAや、あらゆる人間関係から解き放たれて、名刺を持たない無名のフーテンとなる。目的もなく地上を徘徊する、おかしな人物になれる。バス停のベンチで仮眠してたら、お巡りさんの職質も受けることもあるけど、日本人です!と堂々と答えればよい。戸籍票と住民票は間違いなくこの国にある。ぼくたちの自由を抑圧する法はない。
         □
     春うらら。中年徘徊ランナーが眠りから覚める季節は、同時に主要な長距離レースの参加日程を組む時でもある。今年はこんな大会にエントリーした。
    □4月、さくら道国際ネイチャーラン/250km・36時間
     名古屋城から金沢兼六園までの250キロという距離もさることながら、36時間という制限時間の厳しさ、累積標高差4500m、参加選手のレベルの高さと、いずれをとっても国内最高峰の超長距離ロードレースと言える。平凡ランナーにとっては出場すること自体がほとんど無理なハイクオリティー大会だが、今年は参加枠を120人→140人と20人増やしてくれたおかげか、マグレで出られることになった。ありがたやー。
    □5月 川の道フットレース/520km・132時間
     東京葛西臨海公園から長野善光寺を経由し、新潟市へと至る遙かなる道。1740mの三国峠越えはひとつのハイライト。ワンステージレースであるが仮眠所が3カ所設けられているランナー想いの優しい大会。幻覚、幻聴、象足、生爪はがれと、フットレースの醍醐味をフルラインナップで満喫できる。
    □6月 つるぎのめぐみワイルドウォークハードシップ/115km・2日間
     徳島県南部を流れる那賀川河口、海抜ゼロmから西日本第二の高峰・標高1955mの剣山頂上へと向かう。初日はロード、2日目は登山というユニークな趣向。今年初開催。
    □6月 土佐乃国横断遠足/242km・60時間
     高知県の室戸岬から足摺岬まで土佐湾をぐるっと廻る。中岡慎太郎像をスタートし、桂浜の坂本龍馬像を経由して、ジョン万次郎像にてゴールという維新好きにはたまらないコース設定となっている。これまた今年初開催。
    □7月 鳴門海峡・愛媛県佐田岬横断(練習会)/294km
     スパルタスロンの模擬試験として行う。スタート時刻、関門設定を本番同様にする。気温急上昇するスパルタスロンの予行演習は、日本ではクソ暑い夏にしか行えない。練習の総仕上げ。ここでヘバるなら本番は赤信号。
    □8月 トランスエゾフットレース/1100km・14日間
     1日平均78km走るステージレース。真夏の北海道、地平線までつづく1本道をゆるりゆるりと前進する。長期間のステージレースとして、不定期・単発ではなく毎年開催される大会は、国内では稀有な存在。2週間もの間、走ることしか考えなくていいランナーにとっては夢のようなひととき。
    □9月 スパルタスロン/247km・36時間
     ギリシャ・アテネのパルテノン神殿前からスパルタ・レオニダス像まで、2500年前に戦士が駆けた道をたどる。80キロ関門までのスピード、直射日光に焼かれる高温かつ乾燥した気候、1200メートルの岩山越え、徹夜からレース後半の耐久マッチ・・・と超長距離ランナーが持ち合わせるべき全ての要素を高次元で求められる大会。

     これら大会の合間に100kmレースを数本入れ、スピードを養おうって魂胆。
     なーんてね、計画立ててるときだけだよね楽しいのは。頭の中で予定を組み立てたり、飛行機や宿の予約サイトを眺めて、あれやこれやと悩んでいる時間はこよなく愉快。これって鉄ヲタで言うところの「時刻表ヲタ」なんかもね。お楽しみは机上で終わり。
     いざレースに出て走りだすと後悔の荒海。こんな苦しくてつらい事の積み重ね、自分に向いてるわけないし〜。温風乾燥機をほどこした羽毛布団にくるまりたいとか、源泉かけ流しの湯に首まで浸かりたいとか、現世利益の強慾に捕らわれるばかり。
     元々、スピード出して走るのが苦手なうえに、耐久フェーズにも弱い。徹夜ランニング中の走りながらうたた寝は茶飯。明け方まで仮眠処を求めて工事現場のプレハブ小屋や神社の引き戸をガタガタまさぐり、不法侵入を試みる悪だくみに終始。
     こんな自分が名だたる長距離レースに参戦して、人並みに完走を目指すというのは、根本的に方向性を間違っているのかも。
     100kmを7時間や8時間台で走り、24時間走で200kmを軽くクリアするようなランナーたちは、ぼくにとっては皆スーパースターである。ウルトラマラソンをはじめた頃は、彼ら業界のスターたちと肩を並べてスタートラインに立てることが快感だったけど、レースのたびに絶望的リタイアを繰り返してると、「こりゃぼくの居場所じゃないのかも」と切なさに包まれる。
     今年ダメなら競技的なレースからは足を洗おうと毎年のように決意しながらズルズル。チンピラ男に惚れてしまい、殴られ蹴られ金ヅルにされながらも、時折見せる優しさにほだされて、縁を切れない女のサガみたいなもの。もう終わりにしたい、でも愛されたいし、愛してるの私。
     自分の能力、走力はわかっている。場にふさわしくないのも理解しているのだが、もう1年だけやらせてください。「完全にやり切った」と納得できるだけの練習と準備をして、ダメなんだからダメなんだもんと100%自覚したいのです。これ以上のことはできません、細胞の残りひと粒まで絞りきったのです、と確信して終わりたいのです。
     ってことで、シャニムニ練習している。この道をゆくには、熱血スポ根マンガに登場する魔球・必殺技系に類する奇策はないのである。ふり返れば過去5年、奇策奇行に頼りすぎた。20kgの米を背負って崖を登ったり、インターバル走のつなぎにカルピスソーダ一気飲みを入れたり(胃を鍛えようとしたのです)。スピード強化策は箱根ランナーの模写。宇賀地強の空中滑空ラン、大迫傑の異次元の走り、服部翔太のターミネーター顔。中央大学・塩谷潤一のガムシャラ走にはハマりました。もちろん走力の向上には無関係ですけど。
     奇策に頼り失敗すると、また別の奇策があるのではないかと、逃げ道の存在を認めてしまう。だから今シーズンは、よく鍛えられた総務部の経理マンのように、突飛なことをせず、目的を達成するために地道な積み重ねをします。
     あまたのアスリートと同じ土俵に立とうとするなら、練習量を増やすしかない。少なくとも1日20km、レースを含めて1カ月700km以上は走る。これでも甘いと言えば甘いけど、まともな社会生活を送るにはほぼ限界数値。
     よく走り、たくさん食べる。ボウル一杯の野菜をバリバリ食らう。今まであまり摂取しなかった肉もむしゃむしゃ食らう。イミダペプチド鶏ムネ肉ね! アイスクリームとチョコレートのみの偏食生活を悔い改め、よく走れる身体にプラスとなる食材はガンガン胃に放り込む。
     よく走り、よく食べたら、たくさん寝る。時間があればあるだけ眠る。睡眠が深いほど翌日の練習をちゃんとこなせる。天賦の才なき人間が、日々20km、30kmの練習を積み重ねずして、100kmや200kmがこなせるだろうか。無理に決まっておる!
     よく走り、よく食べて、よく寝る。半年間これを繰り返して、それでも結果(スパルタスロン完走)を出せなければ、元のBMI30超級なメタボ中年に戻ろう。なにごとも中途半端はつまらない。絞りきって死ぬか、肥え太って死ぬか。中肉中背はイヤだ〜!
  • バカロードその70 午前零時の堂々めぐり 〜さくら道国際ネイチャーラン〜
    文=坂東良晃(タウトク編集人、1967年生まれ。1987年アフリカ大陸を徒歩で横断、2011年北米大陸をマラソンで横断。世界6大陸横断をめざしてバカ道をゆく)

     真夜中11時。
     岐阜県郡上市にあるひるがの高原へのゆるい登り坂を、ぼくは歩いている。街灯はほとんどなく、ヘッドライトとハンドライトの放つ薄い光の輪だけが、2メートル先の行く手をしめす。
     「ぐえぇぇぇ」と弱々しくえずく。年老いた山羊の断末魔のような喉声。
     胃にエネルギーが満ちているのなら「ギョーッ」っと勢いよくゲロも噴き出そうってもんだが、わが胃をとりまく筋層にもはや収縮する力は残っていない。
     片岡鶴太郎氏の「IEKI吐くまで」のサビ部分が頭の中でオートリバースする。登り坂に入ってから二百リピートはしたか。胃液吐くまで、といっても実際は吐く胃液も残ってないから、酸っぱい気体だけがグエッグエッと込み上げてくるだけ。
     吐く息がかすかな白い蒸気となって立ちのぼる。道路に設置された気温計は1℃と表示されている。寒いのだろうか。寒くないわけないんだろうけど、暑いくらいである。手袋を脱ぎ、オーバージャケットの前ジッパーをはだけている。体感センサーが故障してるのかな。
     口の中がガサガサに乾いている。唾液はひと粒も出てこない。エイドでもらったコーラや水は5分もしないうちに上に戻してしまうから、腸壁から水分を吸収できていない。渓谷の水音が森にこだまする水の惑星のような場所にいて、ぼくの身体はカサカサに乾ききっている。
     午前0時になったから、ピチカートファイブの「きみみたいにきれいな女の子」を口ずさんでみる。少しは思いつめた感が薄れてゆくような・・・だめか。1人ぼっちの女の子の歌だったな。よけい寂しくなってきた。
     乾いた唇の脇がくっついていて、口が開かない。花粉症で鼻が通ってないから、呼吸困難である。口腔内だけじゃなくて喉の奥まで水分が枯れているから、イガイガして気持ち悪い。飲み込むツバがないってのは、けっこう苦痛なのだよ。長距離レースは、「ふだん当然のように存在していて、何のありがたみも感じてないもの」への畏怖を取り戻す場所なんだな。
         □
     「さくら道国際ネイチャーラン」は、超長距離を走る人たちにとって、最も権威がある、晴れの舞台だ。参加するには主催者による書類審査をパスしなくてはならず、外国人ランナーを含めわずか140人しか枠がないため、出場するだけでも大きな価値がある。
     そして、起伏の激しい250kmの難コースを36時間以内に完走できるのは、本当に強いランナーだけだ。
     速く走れるから完走できるわけではなく、長く走れるから完走できるのでもない。痛くても、気持ち悪くても前進を止めない、強いランナーだけが完走できるんだな。
     こんなに大変なコースなのに、毎年の完走率は70%前後をキープしている。審査基準が高いので、そもそも完走できなさそうな人にはお呼びがかからないから、完走率の高さが維持されてる。
     ぼくなんて過去3べんも応募して毎年、落選通知を受け取りつづけ。参加枠が20人増えた今年、ようやく滑り込みで合格したクチ。参加枠が去年までの120人なら、出ることなんて適わなかったんだろうね。
          □
     午前1時。
     スタートから19時間が経った。ゴールの制限時間まで17時間を残している。
     進んだ距離は140km。ゴールまで残り110km。
     数字だけ並べてみるといかにもゴールできそうなんだけど、それほど単純な仕組みで成り立っていないのが250kmレースの奥深さであり、いやらしい所だ。
     110kmを17時間なんてさ、五体満足な状態なら花見でもしながら、時おりスキップをまじえて、恋のおまじないソングでも口ずさみながら、楽勝で走れますよね。
     ところが今、ぼくの両脚は濡れ雑巾のように重く、差し出す1歩のストライドは30cmに満たない。気持ち的には慌ててるのに、1時間に5kmしか進んでいない状況。この鈍牛ペースなら、途中の関門にひっかかるのは時間の問題、ということになる。
     どこに問題があったのだろうか。反省会を開こうヤァヤァヤァ。革命の時代なら自己批判あるいは総括ってとこか。
     大会前、ぼくは5つの戦略を練ったのだった。
    □スタートから106kmの第2チェックポイント(白川エイド)までは寝ながら走る。
    □エイドでは座らない。
    □登り坂では、遅くてもいいから走り続ける。
    □睡魔は走ってぶっ飛ばす。
    □本気を出すのは150kmから。
     さて実際はどうだったか。
    □「さくら道」を走れる歓びに浮かれ、あらんことかスタートから30kmあたりまで暴走した。
    □エイドでは、いきつけの小料理屋におじゃました体で、ゆっくり座して時を過ごした。
    □登り坂では、「後半に向けての筋肉温存」という逃げ口上を思いつき、ほぼ歩いている。
    □波状的にやってくる睡魔に抗う気合いなく、暖かなエイドで5分、10分と過ごしている。
    □いよいよ本気を出すはずの150km手前で、すでに絶望に打ちひしがれている。

     客観分析をすればするほど自分が嫌になってきた。向いてないんだよね、こんなこと。お風呂に首まで浸かりたいよう。布団にくるまってゴロゴロしたいよう。そんなことばかり考えているランナーが、完走なんてできるか? 無理に決まってるじゃない。
     さっきから何人ものランナーに追い越されているんだが、みんな元気そうだ。140km地点で同じ場所にいるってことは、走力としては大差はないのかもしれないのに、彼らはあきらめる気配なんて微塵も感じさせなくて、夜の行軍を楽しんでいるんだもの。
     ぼくに必要なのは精神修行なのかな。写経とか座禅の教室に通ってみようか。滝に打たれて般若心経を唱えたりすると効き目がありそうに思える。すぐあきらめてしまう弱い自分を体外に追い払ってくれる祈祷師とかいないかな。恐山あたりの有名イタコさんに頼めばいくら料金取られるんだろう。
           □
     午前2時。
     標高875mのひるがの分水嶺を越すと下り坂基調になる。本来、下り坂にさしかかればキロ6分台で走って時間を稼ぐべき場面なのだが、さっきから気持ちスパートしてるのに、GPSの表示はキロ9分台しかスピードが出ていない。エッサエッサと早歩きのランナーに追い越されていく。
     長距離に強いってことは、具体的には「暑さなど気温変化に強い」「登り坂・下り坂に強い」「徹夜走に強い」という3大要素があると思うんだけど、ぼくは見事に3つとも弱い。ストレートもフックもアッパーも、決め技を何ひとつ持たずリングにのこのこ上がってしまったボクサーだ。袋叩きにあって当然つったら当然かもしれん。
     長距離走者を襲う代表的なトラブルは、「脚の故障」と「胃をはじめ内臓の不調」が双璧を成しているが、これはほとんど全員のランナーが見舞われる現象であって、あくまで織り込み済みの困難である。痛い・苦しいをリタイアの原因としてるようなら、ハナからこんな場所に来なさんな、と怒られそうなもんである。    
      
     午前4時。
     「スミマセーン、スミマセーン」という声で目が覚める。
     150kmあたりからはじまる平瀬温泉の温泉街を抜ける頃には、歩きながら完全に眠っていた。
     前方のT字路で、韓国人ランナーがこっちに向かって両手をふりながら大声を張り上げている。
     「スミマセーン、道はどっちですかー」
     右方向を指さして「そっちそっちー」と叫んで返す。「ありがとう、あなたガンバッテー」と韓国人は走りだす。レース中、何人かの韓国人ランナーと軽く挨拶をしたけど、皆この大会に向けて簡単な日本語をマスターしてきている。すごいな。
     走り去る彼の背があっという間に小さくなる。次の関門まであまり時間ないものな。君こそガンバッテ、その調子なら間に合うよ。
     知らぬ間に夜が明けている。眼前に白山山系のヒマラヤひだを思わせる急峻な壁が、圧倒的なスケールで迫っている。わぁすごいな。4月も後半だというのに、残雪は汚れもせず白く美しい。
     見はらしのいい庄川沿いの一本道。前にも後ろにも誰一人の存在も確認できなくなる。桜色のフラッグを掲げた大会車両がひんぱんに横を通り過ぎる。ぼくが最終ランナーってことか。遅すぎて迷惑かけてるのかな。
     谷あいのテント1つ造りの小ぶりなエイドステーションにたどりつく。
     関門のある白川郷エイドまで距離は9.5km。残された時間は70分。1km7分で走る脚と気持ちは・・・もう残っていない。
     「ここでリタイアします」と告げる。
     今まで一度も感じなかった空気の冷たさが体の芯まで届き、ガタカダ震えがくる。スタッフの方が、石油ストーブを足下まで寄せ、毛布で身体を覆ってくれる。(ああ、情けないなあ)という後悔の念が押し寄せる。
     「せっかくこんなに世話してもらってるのに、不甲斐ないです」と言う。
     「163kmも走ってきたんでしょ。大したもんだよ」と慰めてくれる。「また来ればいいよ」「ここでエイドやってあげるから」。ううう、すみません。
     ぼくが最終ランナーだと思いこんでいたのに、エイドには続々と後続ランナーが入ってくる。
     顔見知りのランナーに「あれ、やめちゃうんですか。やめなくていいのに」と言われる。
     「はい、もうキロ7分で走れる脚なんてありません」と答える。「それより、今からでも白川郷の関門に間に合うんですか」と聞き返す。
     「わからないけど、きっと大丈夫なんじゃない」とケロッとしている。
     何人かのランナーと、同じような会話をする。誰もが自分のゴールを、完走を信じて疑っていないことに驚く。制限時間ギリギリなのに。今から標高1000m近い山越えが待っているのに。ここからペースアップできる脚を残したこの強い人たちと、弱々しく毛布にくるまるぼくの間には、乗り越えられない川がある。
     今シーズンは月間600〜700kmを走り、苦手なスピード練習もやったのにさ。「身体にいい」とテレビや雑誌やネットで耳にしたサプリメント、飲みに飲んで10種類も常用してるのにさ。玄米に鶏ムネ肉に不飽和脂肪酸オイルにと、一流アスリートみたいな食事してきたのにさ。走れば走るほど弱くなってる気がするさ。
     「僕には明るい未来が見えません!」がリフレインする。誰のセリフだったっけ。ああ、アレだ。新日本プロレスの混乱期に、札幌大会のリング上で若手のリーダー格だったプロレスラー鈴木健三が叫んだ言葉だな。あのとき師であるアントニオ猪木は何と答えたっけ。「テメェで見つけろ」だっけ。そりゃそうだよね。猪木は言葉の天才だね。
     これからどこに走っていくべきか、テメェで見つけるしかねーな。
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