文=坂東良晃(タウトク編集人)
さてと、ぼちぼち旅支度である。サハラ旅に必要なすべての道具を押し入れから引っ張り出し、床いっぱいに広げてみる。小さなバックパックにこんだけの物が詰め込めるとはまさに魔法。荷物の真ん中に寝っころぶ。実際に使うか使わないかはさておき、イザって時に生命を救ってくれるモノどもに囲まれると、癒しのエーテルの海に漂う心境。
さてと、ぼちぼち旅支度である。サハラ旅に必要なすべての道具を押し入れから引っ張り出し、床いっぱいに広げてみる。小さなバックパックにこんだけの物が詰め込めるとはまさに魔法。荷物の真ん中に寝っころぶ。実際に使うか使わないかはさておき、イザって時に生命を救ってくれるモノどもに囲まれると、癒しのエーテルの海に漂う心境。
児童文学「エルマーのぼうけん」導入部に登場する挿絵・・・エルマー少年がキスリングザックにいろんな荷物を詰め込んでいく場面は永遠のマイ・フェイバリット・シーンであるが、誰にも内緒で極秘に冒険の旅の計画を思いついてしまった少年のように無言で興奮している。天井を見つめて瞑想する。70年代、二十代半ばでサハラ砂漠横断7000キロを試みマリで渇死した青年冒険家・上温湯隆が、ほとばしる全情熱を焼きつけた砂の聖地への入城は目の前なんだよね。20年ぶりのバック・トゥ・ジ・アフリカは、ニーチェの提唱する永劫回帰を実践する旅なのかもね。遠くまでいくことは回帰することだと老子先生は説いたよね。人生は転がる石のようだねライク・ア・ローリンストーン。
少し我に返ろう。以下はこの半年でコツコツと集めたサハラマラソン全装備だ。こんな情報が誰の役に立つというのか。誰の役にも立たない。メディアは消費者に役立つ情報ばかりを提供しすぎなのだ。少しはウンコちゃんのような無益な情報を出しやがれ。ぼくのクソ情報はインターネットより遅く、世界を網羅することもなく、地球のどこかの裸電球かがやく四畳半一間に届く。そして、情熱の吹き出し口が見つからず爆発寸前になっている若者の心に、静かに火の粉をふりかけるのだ。引火して、発火して、爆発しやがれ、である。
【バックパック】OSPREY「EXOS 34」
アウトドアショップ「ジョイン」店頭でこのバックパックと対面したぼくは、瞬時に恋に落ちた。脳天にピカガラと稲妻が落ちたのである。性能はさておき、黄土色のこいつと赤褐色のサハラと、ぼくとの三角関係を夢想すると興奮が止まず、早く店頭から拉致したいという衝動を抑えられなくなった。理由はない。一目惚れである。
レースの成否はバックパックにかかる。身体の密着度合いからしても、シューズとともに肉体の一部として扱うべき存在だ。バックパック選びに失敗すれば肩・首・腰と痛みが広がり、最終的にはレースから逃避するかせぬかの葛藤に追い込まれる。
ぼくがバックパックに求める最大要素は、ベルトを自分の感性のままに調整できるかどうかだ。バックパックは3つの点で支えられている。右肩、左肩、腰である。その各支点にかかる負荷は3つのベルトでコントロールする。ショルダーハーネスと呼ばれる両肩のベルトを緩め、ウエストベルトを締めたら荷物の90%ほどの重量が腰にかかる。その逆もできる。平常時では背中全体に重量を分散させるが、数分単位で主たる加重の場所を変える。走りながら、指一本ミリ単位の操作でコントロールできるベルトが理想だ。
半年前にアドベンチャー・レース用に特化した「グレゴリー・アドベントプロ」というザックを仕入れ、練習を重ねていた。しかし登山用ザックとの「締め方の違い」に慣れなかった。そんな現妻との相性もあったのだろう。意のままに加重を操れるOSPREY「EXOS 34」との出会いは運命だと思えた。レース1カ月前にしてのバックパック変更だが、吉凶はやってみないとわからん。
重量は910グラム。背中とザックの間に空間が設けられているので、汗がザック内に染み込まない。10キログラムの荷物を入れ全力で走ってみると、身体とのフィット感がすぐれている反面、やや背中でバウンドする傾向がある。それも愛嬌と受け止めよう。とにかく恋に勝るものはない。こいつと心中すると決めた。
【シューズ】サロモン「XTウィング」
大きく左右に張り出たアウトソールによって、岩・ガラ場のエッヂを確実に捕捉する。頑丈で大がかりなソールと引き替えに軽量さは失われ、片足390グラムと重量感がある。
他のシューズと一線を画しているのは「クイックレースシステム」と呼ばれる独特の靴ヒモ。幅1ミリ未満の細く頑丈な1本のヒモがリング状にシューズに張り巡らされており、指1本で締める・緩めるを調整できる点である。砂漠の連続ランでは、足の裏や甲が大きく腫れあがるという。そんな状況変化に対応してくれそうだ。ぼくの平時の足裏のサイズは26センチだが、腫れを見越して28センチを選んだ。
また、サハラでは靴内部に侵入した細かな砂がやすりとなって足裏をこすり、ためにマメができてたいそう苦しむと言う。「XTウィング」は、砂を通しにくい形状のメッシュ素材で覆われている。が、きっとマメについてぼくは他人よりも耐性がある。三度にわたる千キロを超える徒歩旅行をこなすうちに痛みに慣れてしまった。火であぶったピン先で挿して水分を飛ばし、鉄のようにテーピングすれば痛点はなくなる。問題ない。
【ボトル&ボトルホルダー】モンベル「アジャスタブル ボトルホルダー」
主催者から支給されるペットボトルの水を、常時1.5〜4.5リットル保持しながら走るためには、バランスの良いパッキングが求められる。背中に10キロの荷を背負い、身体の前面にウォーターボトルを数本装着して、前後のバランスを取る。欧米のバックパックメーカーは、ザックに装着するさまざまなアタッチメントを開発しているが、日本では入手困難だ。ようやく見つけたのがコレ。背面のマジックテープを使い、バックパックのショルダーハーネス(肩ベルト)に装着できる。1リットルのボトルが入るので左右で2キロ分の水を体前面に保管できる。
【ウエストボトル】ネイサン「ランニングウエストバッグ Xトレイナーミューテーション」
500〜650mlのボトルを横置きに収納。サイドには148mlのゼリーチューブをセットできるホルダーがついている。横揺れ、縦揺れの少ない秀作である。
【ウォーターリザーバー】モンベル「オメガリザーバー 2.0L」
3つのボトルホルダーに加え、バックパック内には2リットルのウォーターリザーバーをセットする。水の入った袋につながるホースを肩口から胸元に伸ばし、走りながら水補給できる。ホースの先の吸引部分は奥歯で軽く噛めば、勝手にリザーバーから水が押し出されてくる。このオメガリザーバーの利点は大開口部にある。大人の腕も入る巨大な給水口からは手をつっこんで水洗いできる。年がら年中清掃する必要もないが、スポーツドリンクを使う場合は炎天下だと腐るので、洗浄が必要なのである。また吸水口上部にフックがついており、バックパックの上ブタあたりから吊り下げることができる。こんなちょっとしたアイテムが、実戦での使いやすさにつながる。前面のボトル+背面のリザーバーで合計4.5リットルの水を身にまとう。
【シュラフ(寝袋)】モンベル「U.L.アルパイン ダウンハガー#5」
重量わずか475グラム、世界最軽量クラスのダウンシェラフだ。軽さだけを主眼に置いて選択した。サハラ砂漠の夜の気温は摂氏10度前後。仮に5度まで下がっても必ずしも寝袋が必要とは言えないが、大会主催者から「必携品」に指定されているため、持たざるを得ない。U.L.アルパイン ダウンハガーは末尾の数字が大きくなるほど軽量化していく。さすがに#5
にもなると中のグースダウンもまばら。太陽に透かすと向こうがスケスケ。だが僅か475グラムに文句を言ってはいけない。夜露と夜風がしのげればいい、と考えておく。
【ダウンジャケット】ムーンストーン「ルシードリッジダウンジャケット」
グースダウン93%、わずか250グラムの超軽量。格子状の縫製がされているためダウンの偏りができない。ランのあと日没から睡眠までの時間帯に使用する。睡眠時はシュラフと併用して快眠をむさぼる。
【帽子】Kappa「バンダナキャップ」
砂漠の強烈な日射しから頭部を守る。おでこに布をあてがい、後頭部の布をまわしてマジックテープで留め、頭頂部から首筋まで布で覆う。大きめの三角頭巾みたいなものだ。うらめしや〜。
【サングラス】アディダス「a150」
直射日光や砂からの反射光から眼球を守る。
【主食1】尾西食品「ごはんシリーズ」
「白飯」「五目ごはん」「わかめごはん」「梅わかめごはん」「赤飯」「山菜おこわ」「炊込みおこわ」の7種類のアルファ米シリーズと、「白がゆ」「梅がゆ」の乾燥粥シリーズがある。1袋100グラムで300〜400キロカロリーの熱量がある。いずれも熱湯を袋に注ぎ、封を閉じて15分程度待つ、というだけの簡素さ。保存食とは思えないほどの美味で、袋の封を開けるタイミングさえ間違えなければ炊きたてごはんのようなふっくら感を再現できる。実験的に試食している段階でやみつきになり、1週間連続で主食扱いとなった。湯が沸かせないときは冷水を入れても1時間で食べられる柔らかさに戻る。袋のまま食べられるので食器いらず、しかも各袋に1本ずつスプーンが付いているという至れり尽くせり感。サバイバルの最高のお友だちだ。
【主食2】レガー「岳食シリーズ」
登山家に愛用されるレガーのアルファ米シリーズは、尾西食品の和風シリーズに対しオシャレ感漂う洋風メニューで種類も多彩。「野菜コンソメリゾット」「トマトリゾット」「チーズリゾット」「サーモンリゾット」「きのこリゾット」「ビーフカレー&ライス」「ガーリックリゾット」「サーモンピラフ」「カレーピラフ」「ポーク&ガーリックピラフ」「チキン&やさいがゆ」「おぞうに」「おしるこ」。うむ、これじゃあふだんの食生活よりグレードが高くなるじゃないか。重さは1食80グラムほど、カロリーは300キロカロリー前後。主催者サイドから7日間で1万4000キロカロリー分の食料携帯を義務づけられているから、単純計算でこれら乾燥食料を47袋バックパックに詰めないといけない。1食90グラム平均として総重量4.2キログラム。けっこうな重さである。荷物を軽量化させるため、初日、2日で大量に食ってしまおうと思っている(甘いかな?)。
【その他食料】
丼のもと、雑炊のもとなど乾燥食料を多数。顆粒状のコーヒー12本、アクエリアス6袋など。
【コッヘル】
食器はこの1コだけ。火の元は砂漠の風に舞う小枝にライターで着火。至ってシンプルで原始的な食生活を営みます。
【ナイフ】ビクトリノックス「オフィサーナイフ 91mm スタンタード・スパルタンPD」
暑い国ではナイフ1本と食料・水があれば、何はなくとも生命は維持できる。使い慣れたナイフは、缶切りからスプーン、緊急時のメスの代用まで、あらゆる生活小道具の役割を果たしてくれる。
【アルミ製のサバイバルシート】
表が金色、裏が銀色のアルミ蒸着シート。負傷などで体温が低下したときは金色を外向きに身体をくるみ体温保持、銀色を外側にすると高温・炎天下時の日よけ・断熱効果が期待できる。たぶん薄いシュラフだけだと夜は寒いので、こいつを簀巻き状態にする予定。
【懐中電灯・スペア電池】サウスフィールド「SF LEDヘッドランプ 」
キセノンライトとLEDライトが組み合わされている。LEDは3段階の強弱調整ができ、さらにキセノンライトは集光散光調節ができる。レースの4〜5日目には、昼夜をかけて最長80キロを走るノンストップステージがある。電池消費を避けたうえで、ルートを迷わず確実に辿るために、数パターンの光のオプションは役立ちそうだ。単四乾電池3本を加えても150グラムと軽い。
【コンパス】シルバ「Ranger3」
砂漠に道はない。地形と方角確認はランナーの最低限の務め。
【警告用のホイッスル】A&F「エマージェンシーホイッスル」
プラスチック製の笛の表面にはSOSモールスコードが刻印されている。8グラムという身軽さながら、思いっクソ吹けば相当やかましい音が出る。砂漠のど真ん中で、ひとりぼっちでこの笛をピーピー吹いているような、もの悲しい結末にはしたくないもんだな。
【シグナル用の鏡】 完全に道を見失った際に、日光を反射させて自らの存在を捜索者に知らしめるもの。命がけの地味な行動だ。
【時計】セイコー「スーパーランナーズ」
サハラマラソンがレースである限り、より速く、よりよい成績でゴールをめざし走るのは定めである。マイペースで走るのならレースに出る必要なんてないんだからさ。時間の管理を託すのは、この相棒をおいて他にはない。オーソドックス・イズ・ベスト、スタンダード・イズ・ベストの代表格だ。
【カメラ】オリンパス「防水デジタルカメラ μ1030SW (ミュー) 」
砂の侵入の心配が一切ない防塵設計。汗と脂でドロドロの手でつかむもよし、水洗いもよし。高さ2メートルから落下させた耐衝撃実験も念入りに行われたマニアックなコンパクトカメラだ。「XDピクチャーカード 2GB」と 「リチウムイオン充電池 LI-42B」の予備を1本ずつ持って行いく。
【毒素抽出用のスネークポンプ】ドクターヘッセル「インセクト ポイズン リムーバー」
サソリや毒虫に刺され、咬まれた場合の応急処置に使用する。刺されたら2分以内にこのマシンを傷口に押し当て、皮膚の表面をカップ内にバキュームし、毒液を体外に出す。せっかく入手した珍品ながら、なるべくなら恩恵に預かりたくはないものです。
【ワセリン】健栄製薬「日本薬局方 白色ワセリン 60グラム」
股間に塗り股ズレを予防する。あるいは男性の大事な部分・・・つまりマラに塗りたくる。歩幅70センチとして230キロメートルを走り切るには、32万8000回という途方もない回数、脚を前方に繰り出さなければならない。その回数こすられるマラ君の労苦たるや想像を絶する。せめてワセリンという名の愛で包んでやりたいのである。
【その他薬品】
絆創膏20枚、鎮痛薬20錠、医療用固定テープ2巻など。
【消毒剤・液】第一三共ヘルスケア「マキロンS 30ml」
大会サイドからの携帯指定品。マキロンS30mlにしたのは、ドラッグストアに置いてある殺菌消毒剤でこれが一番軽量であったという理由。
【安全ピン10本】
大会サイドからの携帯指定品。ナンバーカードを留めるためだと思われるが、安全ピンは思いがけず役立つ。特に足マメの処理には欠かせない。
【その他】
心電図、健康診断書、パリ往復航空券、パスポート、ライター、タオル
【大会サイドからの提供品】
発煙筒、固形の塩、照明スティック
遠足準備にいそしめば、夜がしらじらと明ける。今宵は目が冴えて眠れない。眠れない夜は1日分得した気分だ。バックパックかついで夜明けの海岸に走りに行こう。無駄なことに汗を流し、無駄なことに命を張ろう。道を踏み外してからが人生のはじまりさ。どうせ死ぬまでのお祭りよ。暴れまくって生きてやろう。
少し我に返ろう。以下はこの半年でコツコツと集めたサハラマラソン全装備だ。こんな情報が誰の役に立つというのか。誰の役にも立たない。メディアは消費者に役立つ情報ばかりを提供しすぎなのだ。少しはウンコちゃんのような無益な情報を出しやがれ。ぼくのクソ情報はインターネットより遅く、世界を網羅することもなく、地球のどこかの裸電球かがやく四畳半一間に届く。そして、情熱の吹き出し口が見つからず爆発寸前になっている若者の心に、静かに火の粉をふりかけるのだ。引火して、発火して、爆発しやがれ、である。
【バックパック】OSPREY「EXOS 34」
アウトドアショップ「ジョイン」店頭でこのバックパックと対面したぼくは、瞬時に恋に落ちた。脳天にピカガラと稲妻が落ちたのである。性能はさておき、黄土色のこいつと赤褐色のサハラと、ぼくとの三角関係を夢想すると興奮が止まず、早く店頭から拉致したいという衝動を抑えられなくなった。理由はない。一目惚れである。
レースの成否はバックパックにかかる。身体の密着度合いからしても、シューズとともに肉体の一部として扱うべき存在だ。バックパック選びに失敗すれば肩・首・腰と痛みが広がり、最終的にはレースから逃避するかせぬかの葛藤に追い込まれる。
ぼくがバックパックに求める最大要素は、ベルトを自分の感性のままに調整できるかどうかだ。バックパックは3つの点で支えられている。右肩、左肩、腰である。その各支点にかかる負荷は3つのベルトでコントロールする。ショルダーハーネスと呼ばれる両肩のベルトを緩め、ウエストベルトを締めたら荷物の90%ほどの重量が腰にかかる。その逆もできる。平常時では背中全体に重量を分散させるが、数分単位で主たる加重の場所を変える。走りながら、指一本ミリ単位の操作でコントロールできるベルトが理想だ。
半年前にアドベンチャー・レース用に特化した「グレゴリー・アドベントプロ」というザックを仕入れ、練習を重ねていた。しかし登山用ザックとの「締め方の違い」に慣れなかった。そんな現妻との相性もあったのだろう。意のままに加重を操れるOSPREY「EXOS 34」との出会いは運命だと思えた。レース1カ月前にしてのバックパック変更だが、吉凶はやってみないとわからん。
重量は910グラム。背中とザックの間に空間が設けられているので、汗がザック内に染み込まない。10キログラムの荷物を入れ全力で走ってみると、身体とのフィット感がすぐれている反面、やや背中でバウンドする傾向がある。それも愛嬌と受け止めよう。とにかく恋に勝るものはない。こいつと心中すると決めた。
【シューズ】サロモン「XTウィング」
大きく左右に張り出たアウトソールによって、岩・ガラ場のエッヂを確実に捕捉する。頑丈で大がかりなソールと引き替えに軽量さは失われ、片足390グラムと重量感がある。
他のシューズと一線を画しているのは「クイックレースシステム」と呼ばれる独特の靴ヒモ。幅1ミリ未満の細く頑丈な1本のヒモがリング状にシューズに張り巡らされており、指1本で締める・緩めるを調整できる点である。砂漠の連続ランでは、足の裏や甲が大きく腫れあがるという。そんな状況変化に対応してくれそうだ。ぼくの平時の足裏のサイズは26センチだが、腫れを見越して28センチを選んだ。
また、サハラでは靴内部に侵入した細かな砂がやすりとなって足裏をこすり、ためにマメができてたいそう苦しむと言う。「XTウィング」は、砂を通しにくい形状のメッシュ素材で覆われている。が、きっとマメについてぼくは他人よりも耐性がある。三度にわたる千キロを超える徒歩旅行をこなすうちに痛みに慣れてしまった。火であぶったピン先で挿して水分を飛ばし、鉄のようにテーピングすれば痛点はなくなる。問題ない。
【ボトル&ボトルホルダー】モンベル「アジャスタブル ボトルホルダー」
主催者から支給されるペットボトルの水を、常時1.5〜4.5リットル保持しながら走るためには、バランスの良いパッキングが求められる。背中に10キロの荷を背負い、身体の前面にウォーターボトルを数本装着して、前後のバランスを取る。欧米のバックパックメーカーは、ザックに装着するさまざまなアタッチメントを開発しているが、日本では入手困難だ。ようやく見つけたのがコレ。背面のマジックテープを使い、バックパックのショルダーハーネス(肩ベルト)に装着できる。1リットルのボトルが入るので左右で2キロ分の水を体前面に保管できる。
【ウエストボトル】ネイサン「ランニングウエストバッグ Xトレイナーミューテーション」
500〜650mlのボトルを横置きに収納。サイドには148mlのゼリーチューブをセットできるホルダーがついている。横揺れ、縦揺れの少ない秀作である。
【ウォーターリザーバー】モンベル「オメガリザーバー 2.0L」
3つのボトルホルダーに加え、バックパック内には2リットルのウォーターリザーバーをセットする。水の入った袋につながるホースを肩口から胸元に伸ばし、走りながら水補給できる。ホースの先の吸引部分は奥歯で軽く噛めば、勝手にリザーバーから水が押し出されてくる。このオメガリザーバーの利点は大開口部にある。大人の腕も入る巨大な給水口からは手をつっこんで水洗いできる。年がら年中清掃する必要もないが、スポーツドリンクを使う場合は炎天下だと腐るので、洗浄が必要なのである。また吸水口上部にフックがついており、バックパックの上ブタあたりから吊り下げることができる。こんなちょっとしたアイテムが、実戦での使いやすさにつながる。前面のボトル+背面のリザーバーで合計4.5リットルの水を身にまとう。
【シュラフ(寝袋)】モンベル「U.L.アルパイン ダウンハガー#5」
重量わずか475グラム、世界最軽量クラスのダウンシェラフだ。軽さだけを主眼に置いて選択した。サハラ砂漠の夜の気温は摂氏10度前後。仮に5度まで下がっても必ずしも寝袋が必要とは言えないが、大会主催者から「必携品」に指定されているため、持たざるを得ない。U.L.アルパイン ダウンハガーは末尾の数字が大きくなるほど軽量化していく。さすがに#5
にもなると中のグースダウンもまばら。太陽に透かすと向こうがスケスケ。だが僅か475グラムに文句を言ってはいけない。夜露と夜風がしのげればいい、と考えておく。
【ダウンジャケット】ムーンストーン「ルシードリッジダウンジャケット」
グースダウン93%、わずか250グラムの超軽量。格子状の縫製がされているためダウンの偏りができない。ランのあと日没から睡眠までの時間帯に使用する。睡眠時はシュラフと併用して快眠をむさぼる。
【帽子】Kappa「バンダナキャップ」
砂漠の強烈な日射しから頭部を守る。おでこに布をあてがい、後頭部の布をまわしてマジックテープで留め、頭頂部から首筋まで布で覆う。大きめの三角頭巾みたいなものだ。うらめしや〜。
【サングラス】アディダス「a150」
直射日光や砂からの反射光から眼球を守る。
【主食1】尾西食品「ごはんシリーズ」
「白飯」「五目ごはん」「わかめごはん」「梅わかめごはん」「赤飯」「山菜おこわ」「炊込みおこわ」の7種類のアルファ米シリーズと、「白がゆ」「梅がゆ」の乾燥粥シリーズがある。1袋100グラムで300〜400キロカロリーの熱量がある。いずれも熱湯を袋に注ぎ、封を閉じて15分程度待つ、というだけの簡素さ。保存食とは思えないほどの美味で、袋の封を開けるタイミングさえ間違えなければ炊きたてごはんのようなふっくら感を再現できる。実験的に試食している段階でやみつきになり、1週間連続で主食扱いとなった。湯が沸かせないときは冷水を入れても1時間で食べられる柔らかさに戻る。袋のまま食べられるので食器いらず、しかも各袋に1本ずつスプーンが付いているという至れり尽くせり感。サバイバルの最高のお友だちだ。
【主食2】レガー「岳食シリーズ」
登山家に愛用されるレガーのアルファ米シリーズは、尾西食品の和風シリーズに対しオシャレ感漂う洋風メニューで種類も多彩。「野菜コンソメリゾット」「トマトリゾット」「チーズリゾット」「サーモンリゾット」「きのこリゾット」「ビーフカレー&ライス」「ガーリックリゾット」「サーモンピラフ」「カレーピラフ」「ポーク&ガーリックピラフ」「チキン&やさいがゆ」「おぞうに」「おしるこ」。うむ、これじゃあふだんの食生活よりグレードが高くなるじゃないか。重さは1食80グラムほど、カロリーは300キロカロリー前後。主催者サイドから7日間で1万4000キロカロリー分の食料携帯を義務づけられているから、単純計算でこれら乾燥食料を47袋バックパックに詰めないといけない。1食90グラム平均として総重量4.2キログラム。けっこうな重さである。荷物を軽量化させるため、初日、2日で大量に食ってしまおうと思っている(甘いかな?)。
【その他食料】
丼のもと、雑炊のもとなど乾燥食料を多数。顆粒状のコーヒー12本、アクエリアス6袋など。
【コッヘル】
食器はこの1コだけ。火の元は砂漠の風に舞う小枝にライターで着火。至ってシンプルで原始的な食生活を営みます。
【ナイフ】ビクトリノックス「オフィサーナイフ 91mm スタンタード・スパルタンPD」
暑い国ではナイフ1本と食料・水があれば、何はなくとも生命は維持できる。使い慣れたナイフは、缶切りからスプーン、緊急時のメスの代用まで、あらゆる生活小道具の役割を果たしてくれる。
【アルミ製のサバイバルシート】
表が金色、裏が銀色のアルミ蒸着シート。負傷などで体温が低下したときは金色を外向きに身体をくるみ体温保持、銀色を外側にすると高温・炎天下時の日よけ・断熱効果が期待できる。たぶん薄いシュラフだけだと夜は寒いので、こいつを簀巻き状態にする予定。
【懐中電灯・スペア電池】サウスフィールド「SF LEDヘッドランプ 」
キセノンライトとLEDライトが組み合わされている。LEDは3段階の強弱調整ができ、さらにキセノンライトは集光散光調節ができる。レースの4〜5日目には、昼夜をかけて最長80キロを走るノンストップステージがある。電池消費を避けたうえで、ルートを迷わず確実に辿るために、数パターンの光のオプションは役立ちそうだ。単四乾電池3本を加えても150グラムと軽い。
【コンパス】シルバ「Ranger3」
砂漠に道はない。地形と方角確認はランナーの最低限の務め。
【警告用のホイッスル】A&F「エマージェンシーホイッスル」
プラスチック製の笛の表面にはSOSモールスコードが刻印されている。8グラムという身軽さながら、思いっクソ吹けば相当やかましい音が出る。砂漠のど真ん中で、ひとりぼっちでこの笛をピーピー吹いているような、もの悲しい結末にはしたくないもんだな。
【シグナル用の鏡】 完全に道を見失った際に、日光を反射させて自らの存在を捜索者に知らしめるもの。命がけの地味な行動だ。
【時計】セイコー「スーパーランナーズ」
サハラマラソンがレースである限り、より速く、よりよい成績でゴールをめざし走るのは定めである。マイペースで走るのならレースに出る必要なんてないんだからさ。時間の管理を託すのは、この相棒をおいて他にはない。オーソドックス・イズ・ベスト、スタンダード・イズ・ベストの代表格だ。
【カメラ】オリンパス「防水デジタルカメラ μ1030SW (ミュー) 」
砂の侵入の心配が一切ない防塵設計。汗と脂でドロドロの手でつかむもよし、水洗いもよし。高さ2メートルから落下させた耐衝撃実験も念入りに行われたマニアックなコンパクトカメラだ。「XDピクチャーカード 2GB」と 「リチウムイオン充電池 LI-42B」の予備を1本ずつ持って行いく。
【毒素抽出用のスネークポンプ】ドクターヘッセル「インセクト ポイズン リムーバー」
サソリや毒虫に刺され、咬まれた場合の応急処置に使用する。刺されたら2分以内にこのマシンを傷口に押し当て、皮膚の表面をカップ内にバキュームし、毒液を体外に出す。せっかく入手した珍品ながら、なるべくなら恩恵に預かりたくはないものです。
【ワセリン】健栄製薬「日本薬局方 白色ワセリン 60グラム」
股間に塗り股ズレを予防する。あるいは男性の大事な部分・・・つまりマラに塗りたくる。歩幅70センチとして230キロメートルを走り切るには、32万8000回という途方もない回数、脚を前方に繰り出さなければならない。その回数こすられるマラ君の労苦たるや想像を絶する。せめてワセリンという名の愛で包んでやりたいのである。
【その他薬品】
絆創膏20枚、鎮痛薬20錠、医療用固定テープ2巻など。
【消毒剤・液】第一三共ヘルスケア「マキロンS 30ml」
大会サイドからの携帯指定品。マキロンS30mlにしたのは、ドラッグストアに置いてある殺菌消毒剤でこれが一番軽量であったという理由。
【安全ピン10本】
大会サイドからの携帯指定品。ナンバーカードを留めるためだと思われるが、安全ピンは思いがけず役立つ。特に足マメの処理には欠かせない。
【その他】
心電図、健康診断書、パリ往復航空券、パスポート、ライター、タオル
【大会サイドからの提供品】
発煙筒、固形の塩、照明スティック
遠足準備にいそしめば、夜がしらじらと明ける。今宵は目が冴えて眠れない。眠れない夜は1日分得した気分だ。バックパックかついで夜明けの海岸に走りに行こう。無駄なことに汗を流し、無駄なことに命を張ろう。道を踏み外してからが人生のはじまりさ。どうせ死ぬまでのお祭りよ。暴れまくって生きてやろう。